異世界の子どもたち(2)
若干小走りで廊下を進み突き当りの大きな扉の前までやって来る。
シーラさんはそこで一つ大きな深呼吸。
「み・・・みんな?ごめんね!」
扉に手をかけ、ゆっくりと開いていく。
部屋の中の子供たちの視線が一斉に集まる。
その中には先ほど会ったロキくんの姿も見える。
「あー!グリントスだー!シーラー早くちょーだい!」
木製の机をバシバシ叩いて催促する少女。黒目がちの眼がキラキラ輝いているのはよいが、その目が8つあるように見える。そして下半身も蟻の腹のように膨らんでおり、そこから3対、計六本の硬質な脚が生え並んでいる。あれは・・・ちょっと苦手かもしれない・・・
「おやつ・・・」「おやつ・・・」
口の端からよだれを垂らしている二人は兄妹だろうか?獲物を狙う眼光でグリントスを見つめている。この二人の外見はほとんど人間のそれだが、肘から先は鳥のように羽根になっている。その羽根は濡れたような黒色で先っぽだけが燃えるような朱色だった。長ズボンとロングスカートで隠れて見えるが足も鳥のように爪になっているみたいだ。
「おやつもいいけどぉー!その人誰ー?」
腰の辺りから生えた鱗で覆われた尻尾を犬のようにぶんぶん振って碧眼の少女が楽しそうに聞いてくる。頬や手の甲にも鱗があるみたいだ。鱗は深緑色でトカゲや蛇なんかの爬虫類を彷彿とさせる。
「この人はお客さんでヒロトさんといいます。落ちてきたんですよ!」
「はぁ?」
「・・・?」
「おやつ・・・」「おやつ・・・」
「どゆこと?」
ロキくんが素っ頓狂な声を上げる。他の子供たちも頭の上に疑問符が浮かんでいるようだ。羽根の兄妹はグリントスしか見えてないみたいだが。
「ねえ、シスターぁ!落ちてた生き物ひろってきたらいけないんだよ。ママに言われた。」
鱗の少女が言う。・・・生き物て何気にひどくないかい。あと落ちてたの意味が違うと思う。
「どうも、こんにちは。俺はヒロトって言います。よろしく。」
少し考えて、とりあえず挨拶をすることにする。突っ立ってても仕方がないしな。
「こんにちはー!リサはねぇ!リサだよぉ!リザードマンでっす!」
俺の自己紹介に鱗の少女が答えてくれる。何というか底抜けに明るい子だな・・・ちょっとバカっぽいというか・・・まあ子どもってそんなもんかもしれない。
「ボクはハーピーのオーギ・・・おやつ・・・」
「ワタシはセイレーンのセーラ・・・おやつ・・・」
「オーギくんとセーラちゃんは種族は違いますが双子の兄妹なんですよ!」
シーラさんが補足をしてくれる。この兄妹さっきからおやつしか言わないな・・・
目線も俺じゃなくてグリントスだし。
「それじゃあ私も自己紹介するね。アラクネーのクララです。こんにちは!」
子どもたちの中で一番まともに挨拶をしてくれたのは、ちょっと苦手な見た目の虫の子だった。
でも、ちゃんと挨拶出来ていい子だな・・・
「ロキくんはさっき紹介しましたね?いつもは、もう何人かいるんですが、今日来ているのは、この五人だけですね。」
「そうなんですか。それより・・・」
「?」
「早くグリントスを食べましょう、子どもたちが待ちきれないみたいなんで・・・」
オーギとセーラの兄妹を指差す。二人の口から溢れる、よだれが限界だ。
「ご、ごめんねぇ!」
とそれを見た、またシーラさんが謝るのだった。