異世界落下(3)
しばらくするとシーラさんが両手に見覚えのあるものを抱えて戻ってきた。
「これですよ!これ!ヒロトさんのではないでしょうか?」
そう言って抱えていたものを机の上に置く。
物を載せたことでただでさえ小さな机がさらに小さく見える。
「お召し物と・・・何でしょう?この丸くて重いのは?」
ところどころ泥がついて汚れてしまっている洋服。
おそらく落下した時にビニール袋は破れてしまったのだろう。
それとあれは・・・ル〇バ君ではないか。奇跡的に無事だったらしい。
すでに死んでいるが。
うーん・・・持っていたものは一緒に落ちてきた感じだな。しかしアレがない。
「シーラさん、これの他にこれくらいの大きさの箱がありませんでしたか?」
手で大体の大きさを伝えてみる。
「箱ですか?うーん、ごめんなさい。見ていません・・・」
しょぼんとした顔で謝るシーラさん。
あ、今気づいた。この人、尻尾もついてる。
尻尾もしょぼんとしている。・・・やっぱり生えているんだろうか?
「ああ、いえ。大したものではないので気にしないでください。」
「そ・・・そうなんですか?」
まあ、今手元にあの宝箱があっても何かの役に立つとは思えないし。
「ああ、それでこれ全部俺のです。拾っていただいてありがとうございます。」
ペコリと頭を下げる。
「いえいえ!それにしても珍しいお召し物ですよね?それにかわいいです。例えば・・・」
そう言ってシーラさんは洋服の一枚を両手で持って広げる。
それは縮んでサイズが小さくなってしまった白い羊毛のセーターだった。
・・・うん。何というか絶妙なチョイスですね。
「ああー・・・えーとそうだ。この服、珍しいんですか?」
「ええ。街でもこのような精巧な縫製のものは見たことがありません。こんなにモコモコなのも。」
・・・これは日本では普通レベルの縫製技術だと思うんだけどなぁ。たぶんだけど。
いまいちここが、どういう場所なのか分かってこないなぁ・・・
「うーん・・・」
「そういえば、ヒロトさんはどこからいらっしゃったんですか?」
「それが・・・一応出身は北海道・・・日本なんですけど・・・」
「ホッカイドー・・・二ッポン?」
ポカーンとしておられる。伝わらない・・・か。
「そうだ!地図を持って来れば早いですよね!」
シーラさんは立ちあがってパタパタとまた部屋を出て行った。
地図を取りに行ってくれたのだろう。
なんだか忙しいヒトだなぁ・・・ヒトなのか?
今度はすぐに戻ってきたシーラさん。左手にリボンのついた羊皮紙のようなもの(間違いなく羊皮ではないと思うが)を抱えている。
「クルクルっと・・・」
机の上に置いてあった服をベッドの上に移動し、地図を広げる。
「えーと・・・これは、この大陸の地図ですね。街はこの辺です。」
これが世界地図なのか大陸地図なのかは分からないがシーナさんが墨で描かれた地図の一点を指差す。
何か文字らしきものも書かれているが、まるで読めない。
そして残念なことに、この大陸の形は自分の知るどの大陸とも合致しなかった。
「ホッカイドー・・・ニッポン・・・んー、見当たりませんね。ここの大陸じゃないのかなぁ。」
ムムムという思案顔をするシーナさん。
「すみません、これ以上大きいほかの大陸も乗っているような地図は、この教会に置いていないんですよね。」
「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
さて・・・話はできるのに北海道でも日本でも国名が伝わらない。
流暢にしゃべっているが耳や角なんかが生えていてヒトではないらしい。
ここは俺の知る大陸ではない。そして何より太陽が二つある。役満だ。
どうやら俺は、いわゆる異世界に来てしまったらしい。
これから何をすればいいのか。
どうしてここに来てしまったのか?
何も分からないが受け入れることで少し落ち着くことが出来た。
「グゥゥー・・・」
落ち着いたからか腹の虫が鳴いた。
「あら?お腹が空きましたか?」
しっかり聞かれてしまったみたいだ。
「そうだ!ちょうど、あの子達もそろそろ、おやつの時間なので一緒に食べましょう!」
腹が減っては戦は出来ぬ。とも言うし、ありがたく頂戴しよう。
シーラさんについて俺は部屋を出るのだった。