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小牧と天才スクランブル

ドキドキのち

 天才スクランブル(略して天スク)は、夕方6時頃から放送している子供番組だ。主に、スクランブルキッズと呼ばれる子どもたちが、歌やコント、ロケに挑戦したり、週終わりの金曜日には、生放送で視聴者の子供たちと交流するのが番組の恒例となっている。

 子供番組であるが、大人でも視聴する人が多い。主な理由は、番組が面白いというよりも、スクランブルキッズの存在が大きい。彼ら(彼女ら)は、お気に入りのキッズを見つけ、応援する。

 1年ごとに、キッズの入れ替わりがあるのが、この番組の特徴。キッズには年齢制限があり、中学2年生までは在籍出来る。定年まで在籍するキッズもいるが、大半は中2になる前に辞める。ファンの間では、降板した子は卒業、しなかった子は残留、新しく入ってきた子は新人と呼ばれている。中2以外卒業のタイミングが分からないので、好きなキッズが残留しているか、新年度が始まるたび、ドキドキする視聴者が多い。好きなキッズが卒業してしまったら、番組を見るのを止めるのもいるが、新しいお気に入りのキッズを見つけ応援。それを何年か繰り返し、番組を見続ける

 小牧もそんな彼らの一人だ。


 新年度が始まる日、小牧は朝からドキドキしていた。

 自分のお気に入りのキッズは残るのか。

 最近はそのことばかり考えている。

 キッズ歴は新年度を迎えたら3年目。学年も進級し、中学1年生になる。残留する確率の方が高いが、ここ数年は残留確実と思われていたキッズが2~3人卒業し、誰が残留・卒業するのか読めないことが多い。

 ツイッターで、

『今日から、新年度! 俺の押しキッズ、残っていくれぇ~』

とツイートしたところ、

『分かるわぁ~。俺の押しキッズも残ってほしい!』

『○○と○○、残留希望!!』

『△△くん、卒業しないでほし~』

次々に返信が来た。

彼がツイッターフォローしているのは、天スクファンだけだ。

「SNS最高…」

 思わず、小牧はスマホ片手に呟いた。


「小牧、何でソワソワしてるの?」

 大学内で友人に聞かれた。

「ソワソワ?」

「うん、朝からずっと」

 そりゃ、今日から新年度が始まるんだぞ。お気に入りのキッズが卒業してしまうかもしれないのに、落ち着いていられるか…

 小牧はそう言いたかったが言えない。

 彼は、天スクを視聴していることを周囲の人たちに伝えていない。伝えたところで、馬鹿にされそうな気がするからだ。おそらく、誰もこの年になって天スクを見てる人は少ないだろう。

 では、小牧は何故未だに天スクを見てるのか。

番組が好きだから。押しキッズが次々出てくるから。視聴することが日常になってるから。

 理由は色々あるが、小牧自身深く考えたことはない。たぶんではあるが、特に天スクを視聴し続けることに理由なんてないのだろう。


「今日、カラオケ行くけど小牧は?」

「パス!」

 小牧は即答した。

「用事でもあるのか?」

 天スクをリアルタイムで見るからだよ。

 録画しているとはいえ、新年度の1回目はリアルタイムで見たい。

「そうだよ」

「何の用事?」

「教えるほどでもないよ」

 というか、教えたくない。そもそも、何でお前に教える必要があるのか。もう聞くなよっ。

「ふーん」

 小牧の思いが通じたのか友人は追及するのを止めた。


 急いで家に帰り、番組が始めるまで、夕ご飯を済ます。番組開始まであと5分。テレビを付け、チャンネルを合わせたら、忍者のアニメが放送されていた。このアニメも天スクと同じ年に始まった。

 アニメがエンディングに入り、緊張が最高潮に達した。

 番組が始まる。

 最初に出てきたのは、番組司会者のお笑い芸人。子供たちの扱いや進行が上手い。今年も、この二人が司会者で安心。

 今年度の設定について話しているが、押しキッズのことで頭がいっぱいで話しが入ってこない。録画してあるから、あとで見返そう。

 次に、スクランブルキッズが登場。急いで、押しキッズを探す。

 いたっ!

 小牧はすぐに分かった。嬉しさのあまり、ツイッターを開いた。

『俺の押しキッズ、残留だーーーーー!』

 TLには、悲喜交々の呟きであふれていた。

 小牧みたいに、押しキッズが残留して嬉しい人。卒業したことを嘆く人。

『○○ちゃん、残留したよ』

『最悪…卒業かよ…』

『新人の△△ちゃん、かわいい。押し変えようかなぁ』

 番組も進んでいき、エンディングに入った。番組のエンディングはその年のスクランブルキッズが歌うことになっている。押しキッズのソロも短いながらもあった。

 小牧は、満足の行く様子で番組を見終えた。

「あと、1年は番組を見続けることが出来る…」

 思わず呟く。小牧は、嬉しさのあまり、録画した天スクを、お風呂に入るまで、何回も繰り返し見ていた。

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