捕らわれ詐欺師とお嬢様
授業が終わり休み時間になると、俺は青沢に小声で話しかける。花城と建前上では和解した感じになってはいるが、いきなり仲良くってのもおかしな話だしね。
「さて、青沢。まずは俺が真木に話しかける。いい関係を気づいてお前と真木の仲介役をやる。」
「私がいった方がはやくない?」
「いや、なるべく俺が秘密裏に動く方がいいだろ。」
「ふーん。まぁ、いいけど大丈夫?」
「フン。なめるなよ!よし。行ってくる。」
俺は詐欺師だぜ。人とのコミュニケーションなんて基本だ。どのタイプがきても大丈夫なんだよ。君と違ってな。
俺は真木の席に向かう。あいかわらず一人で本を読んでるな。
「こんにちは。本お好きなんですね?」
俺は笑顔と優しい声で真木に近づく。
「…………」
真木は一度俺を見るがすぐに目線を本に移す。
「あ、あの?」
え、なに?まさかの無視。怖い、怖い。人と話すのが怖いよ。
「……聞こえてる。何か用?」
真木は溜め息をつき、本を閉じて迷惑そうに顔をこちらに向ける。
「読書中すいません。実は僕も本が好きでよく読むので、真木さんが何を読んでるのかと気になりまして声をかけさせて頂きました。」
「なるほど……なんで私の名前知ってるの?」
「転校生ですからね。はやく馴染めるようにクラスメイトの名前は全員覚えました。」
「真面目なのね。」
なんだろ。手応えがない。てか良くない流れだ。
「真面目ではありませんよ。話すのは初めてですね。宮場です。今後もよろしくお願いします。」
俺は再度笑顔を向ける。
「……今後はないわ。私に話しかけないで。」
今なんと??……気のせいかな?いや気のせいであってよ。神様。
「じ、冗談が好きなんですね?ははは。いやー真木さんって面白い方ですね。」
「嘘くさい。てか、気持ち悪いわね。その笑顔も白々しい台詞もその顔も」
顔は関係ねーだろうが。親に謝れ。今すぐ謝れやー。なんなんだよ。初対面なんですけども。
「いやー酷いですよ。さすがにへこみますよ。なーんて。」
怒りを押さえ込むのでいっぱいだ。そして泣きたい。
「……最初にあなたが言った質問を答えてあげる。」
「はい?」
「私は特に本が好きなわけではないわ。ただの暇潰し。あなたは読書中家みたいだから、今読んでる本あげるわ。」
真木は机に置いてある本を俺に差し出す。無表情でだ。人は何故人に優しくできないのであろーか。真木は何故俺に優しくしてくれないのよ。
「あ、ありがとうございます。」
俺は詐欺師。誇り高い詐欺師。
「さぁ、自分の席に戻って読書でもしなさい。」
小娘ごときに遅れはとらない。……のはず。
「し、し、失礼しました。」
俺は生まれたての小鹿のごとく足をふらつきながら自分の席につく。そして深呼吸をする。
くそがーーーー!!ふざけるな。ふざけるな。ふ、ふざけるな~!!初対面の人に対してあれはないだろ。中二病だよ。あれが格好いいと思ってんだぜ。なーにが「席に戻って読書でもしてなさい」だよ。なーにが「嘘くさい、白々しい台詞」だと。こっちはな詐欺師なんだよ。オコだよ。マジオコ。もー嫌。こうなったら読書しよ。自分の世界に閉じこもる。読書最高ー!!
「クスクスクス」
なんだよー!!みんなよー!!
「あんた、いい関係を気づいて私に仲介役をするんじゃないんですかー?」
ここにもいた。嫌な奴が。
「う、うるせーな。あいつ予想以上に固い。拒絶間がやばい。」
「フン。男のあんたより私が行ったほうが心の壁はとけやすいのよ」
なまいきな。…………心の壁か。フーーーン。
「なら、いってこいよ。」
みなさん予想は当たりますよ。
「任しなさいよ。頼りない相棒には困るわね。見てなさいよ。ハハハハ。」
意気揚々に真木の元へと青沢は行く。……そして。
「な、な、な、な、なんなのよーー!あいつ頭おかしい。マジで空気読めてない。怒りであんたを殴りそう」
いややめろよ。そしてお前が空気読むとかを語るな。
そして青沢が行ったところで俺と大差ない対応をとられていた。
「マジムカつく。なーにが「あなたのボッチと私のボッチは違う」よ。変わらないでしょーが。」
どうやらボッチの真木に対して、私が助けてあげるみたいな事をいったらしい。……バカとしかいいようがない。
「まぁ、待て。俺も怒りで我を忘れた。情けない。」
「てか、どーすんのよ?あいつに協力してもらうとか無理でしょ。」
「いや、無理じゃない。おまえと真木のやり取りを見ていてわかったことがある。」
「なに?」
「本人は気付いてないかもしれないが、おまえとの話の最中は髪を触ったり、なるべく顔をあわせないようして話をしていた。」
「??だから何だってのよ。」
「人は嘘をついたりする際、人体の触れたり、まばたきが多くなったり、話題を切り替えたりなどいろいろとあるが嘘をつく時に出るポイントがあったりする。真木は少なからずそのポイントがあった。」
まぁ、俺の時はなかったですけども。
「へぇー!そんなんがあるんだ。」
「あぁ、だから真木はお前に対してなにかしら嘘をいっているかもな。例えば、本当はおまえと親しくなりたいとかな!」
「なんで嘘なんかつく必要があるのかな?」
「わからんが、奴の本音を引き出すしかないだろ。」
まぁ、最初の接触は失敗だったのはいなめないし俺も感情的になってたな。反省だ。
「最初に拒絶が入ったならやることは簡単だ。」
「なんか手があるの?」
「しつこく奴に話しかける。そしてこちらサイドは嘘はつかない。真木に対しては嘘は裏目にでる可能性がたかい。」
「ストーカーみたいね。まぁ、私は嘘なんか言わないけど、あんたが心配。」
「いや、俺もありのままでいくよ。…………てか嘘くさいって言われたし。」
俺は最後の部分は小声で呟く。根にもつタイプなんです。詐欺師の部分は嘘をつくけどもな。
「最後の言葉なんていったの?」
「なんもいってない。よし。これからは真木ストーカー作戦を開始するぞ。」
「ネーミングがキモい。」
青沢はドン引きした表情をしながらも、やる気になっている様子だった。
早いものであっという間に授業は終わり帰宅時間なる。真木は早々に帰り支度をし教室からでる。
俺と青沢は真木に気づかれないように追いかける。クラスメイトが俺と青沢が一緒にいることに違和感があるだろうが、花城との一時的な和解もある為、そんなに反感をかってはいないができれば避けたいところ。だがそれよりも時間がない。
「青沢!とりあえず真木と話ができる環境に持っていけるとベストだ。」
「わかってるけど、難しいわね。」
「あいつカフェテリアとかにいかねーかな?」
「いや、いかないでしょ。性格が暗いからね。直帰よ。」
青沢とぶつぶつ話をしながら真木の後をつける。学校から出ると真木はフラりと店に立ち寄った。
「か、か、カフェテリアーきたーー」
「か、か、カフェテリアーきたーー」
恥ずかしいわ。このテンション。俺達も真木に続いてカフェテリアにはいる。さすがは天命学園生徒御用達のカフェテリア。外観、内装共素晴らしい。店員も皆上品だ。
「場違いだわ。マジで。」
いつもは自販の缶コーヒをすすって生きてきたからな。
「普通でしょ?」
忘れてたがお前もお嬢様だったな。お前もこちら側にきなさいな。
俺達は注文したコーヒーを受け取り、カウンター席にいる真木の元に向かう。ちょうど真木の両隣には人はいない。
「どーも。真木さん」
真木はこちらをみると顔をしかめてため息を漏らす。
「またなの?何の用?こんな所まで。本当に迷惑。」
「ちょっと、そんな言い方はないでしょ。」
青沢はイラつき始める。まったく学習しなさいよ。
「本当のことでしょ。」
さすがに真木もイライラしてる様子だ。
「いやね。真木さんに頼みがあるんだよ。」
俺は唐突に切り出し真木の左隣に座る。俺を見て青沢もしぶしぶ右隣に座る。
「なんなの?いいかげ」
「青沢を生徒会長にしたい。」
俺は真木が言葉をさえぎり喋り出す。
「そこであんたに力を借りたい。」
「意味がわからない。………てかやっぱり今のあなたが本当の姿なのね?」
「嘘くさくて悪かったね。まぁ、あんたには本音でいくと決めてね。」
「皮肉かしら。まぁ、なんでもいいけどあなた達の目的が青沢さんを生徒会長にする為に私に力を貸せというならそれは無理。私にそんな力はないし、貸す義理もない。」
「真木さんにはないかもだが、俺達にはあんたが必要だ。」
「花城さんにお願いして。」
「花城は後々な。真木さん!あんたの協力がなければ青沢は立候補すら難しい。」
「ボッチの私が協力しても意味ないわよ。」
「見てる人はちゃんとあんたを見てるし評価もしてるよ。自分をしっかりと持ち真面目で……優しいってね。」
「やめて!!あなたに何がわかるの。転校生なんかに。」
「俺は真木さんと花城が味方になればクラスはまとまるし、青沢の生徒会長立候補の道がスタートできるんだよ。」
「だから、手を貸す義理がないって何回も言ってるでしょ!」
真木は少しあらげた声で俺たちに言う。他の客には幸い気づかれてない様子だ。
「あんたさー。暗いよ。暗すぎ。」
青沢は突然空気も関係なしにいう。バカだね。でもいい。
「私もさ、いろいろあったし、そこのバカのお節介がなければ正直今も憎しみとか悲しみとかで変わらない毎日だと思う。」
「なにいってんの?」
「私はさ変わりたいんだよ。父親の力じゃくてさ私自身が変わりたい。だから……あんたと友達ってのになりたい。」
青沢の発言にビックリした様子の真木
「はぁ?なに急に?ならないわよ。」
青沢の方を見ずに真木は下を向き答える。だが青沢は真木の顔を優しく自分の方に向け問いかける。
「友達になって。正直あんたに何があったとかわからないし私は生徒会長にもなりたい。でも、打算だけじゃない。今思うと昔の友達なんて親の力で作ったようなもん。いじめもさ私に悪い所があったせいだしね。」
「…………」
「だから、今度は自分の力で友達ってのを作りたいんだ。」
青沢は少し照れた様子で真木に話す。
「……私は……もう友達なんて……。」
真木は青沢から顔をそらし力が抜けたような声で呟く。
「高校生生活なんてもんは3年間だけだよな。今は俺達2年生だから後1年ちょいで学校ともさよならだ。」
俺はコーヒーを飲み干し、立ち上がると
「ならせめて友達二人と一緒に卒業しよーぜ。後々高校生活も悪くなかったといいてーじゃん。」
俺はそれだけ言うと店から出る。それを見ていた青沢も席を立ち俺を追いかける。残された真木は考えるようにコーヒーカップを見つめていた。
「ちょっと、なんであんたも友達になろーとしてんのよ。」
「べ、別にいいじゃねーか。え、ダメだった?」
すると青沢はニコリと笑い
「いいんじゃなーい。てか私もあんたの友達なの!」
「…………さぁーな!」
「クス。なんなのそれ!」
てか青沢がかなり上機嫌だ。まぁ、いっか。真木との感触は悪くなかっはたしね。後は継続して接触し、あいつの根底にある過去を知らないとな。そんなことを思いながら俺達は自宅に戻っていった。




