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捕らわれ詐欺師とお嬢様  作者: モトキ
7/22

捕らわれ詐欺師とお嬢様

 次の日の朝、目覚ましが鳴り俺は目が覚める。昨日まで刑務所で暮らしていたので、今の豪華な部屋に違和感があったりする。それも仕方ない。刑務所では狭い檻の中ムサイおっさん達と共同生活をし、空気もなんか臭い。目覚めた時、最初に目にするのがおっさん。ご飯を食べてて前を見るとおっさん。刑務所の仕事をしてるときもおっさん。寝てても少し目覚めるとおっさん。なんならイビキのサービス付きだった。てかイビキで目が覚める始末。……本当におっさんパラダイスだった。

 「も、戻りたくねぇ~」

 嫌な過去を少し思いだし、身震いがした。あらためて自由になりたいと思いました。

 「学校に行くか」

 俺は顔を洗い制服に着替えて、食堂で優雅に朝食をとり、学校にむかった。

 教室に入ると、大半の生徒は登校しており、花城や青沢もいた。朝のホームルームまで時間あるのに。雑談をする生徒、静かに読書をする生徒、そして朝から眉間にシワをよせて外を眺めてる…青沢さん。青沢に関しては早く来ても居心地はよくないだろうに。クラスの連中に逃げてると思われたくないんだろ。俺はそんな事を思いながらクラスの生徒に挨拶をする。そして自分の席には着かずに花城に近寄り挨拶しにいく。

 「お話の最中に申し訳ありません。皆さん、おはようございます」

 花城は他の女子生徒達と雑談をしていたが、俺の声を聞くと話をやめ、ニッコリと優しく

 「おはようございます。宮場さんから声を掛けてくださるなんて嬉しいです」

 花城に続き他の生徒も達もあいさつを話しかけてくれる。

 「おこがましいですが、僕は花城さん達と早く仲良くなりたいです」

 俺は少し照れた様子をかもしだし、

 「正直……話しかけるのは勇気がいりますね」

 「どうしてですか?」

 「皆さん美人ですから、僕なんかが……話しかけていいのか」

 すると女子生徒達は照れた様子で顔を見合わせて嬉しそうな表情をし、

 「美人とか…花城さん達は美人ですけど、私なんて」

 「そんなことありません。美保さんの方が美人です」

 「それでしたら、愛さんの方が」

 なんてハシャギだしていた。うざ。こいつら自分が美人だって心では思ってる。もちろん花城は美人なんだけど、中には残念な方もいる。女って不思議だよな。かわいいとか、美人とか、どの基準でみてんのかわからん。だって残念な子もかわいいとか美人ってなる。もちろん建前だったりするかもだけど。だから女は怖い。

 「宮場さん。そうかたくならないで下さい。前もいいましたが私達だって仲良くなりたいです。そうは言っても宮場さんこそ素敵な男性なので私達も緊張してしまいますね」

 「そ、そんなことは」

 花城はやはり冷静だね。俺みたいな奴にもしっかりと誉めることができる。

 「皆さんも、宮場さんと仲良くしていきたいですよね?」

 花城の言葉に皆、頷き、もちろんですと返事をする。

 「ありがとうございます」

 とりあえずはこれでよし。俺は花城に対して敵意はないことを示せた。そして、このやり取りを見ていた他の生徒にも花城とは仲良くしたいと思わせることができた。

 俺はホームルームが始まるまで花城達と雑談をして席についた。

 さっそく横にいる青沢に嫌がらせでもしようと話かけようとした時だった。

 「……さっそくあの女に媚りやがって」

 不機嫌そうに俺に言ってきた。ちゃんと見てたのね。

 「媚びてませんよ。クラスメイトなんですから仲良くなりたいと思うのは普通ですよ」

 「……私は誰とも仲良くなりたくないけどね」

 「あぁ、それは間違いですよ。あなたの場合は皆さんと仲良くしてもらえないだけです」

 「おまえってマジでうざいな」

 「あなたに対してはね」

 俺は嘲笑うかのように青沢を見る

 「…………」

 青沢はなにも言わずに外を向いた。

 「花城さんにお願いでもしたらどうですか?私も仲間にいれてくださいと頭を下げて、靴でも舐めたら?」

 そんなこと言うが、もしされでもしたら生徒会長にはなれない。下僕になりさがった奴が投票されるわけがない。対等、いや人に認められるような奴でなければならない。

 「死ね」

 青沢は決して言わない、頼まない。彼女はプライドの塊だから。

 程なくしてほみか先生が教室にきてホームルームが始まり一日が始まる。俺の一日は基本、花城やクラスメイトと話をしたり、学校の事を聞いたり、青沢がいじめられてるのを観察する。もちろん俺も参加するときもあり。

 青沢は医者の息子のバカ二人にからまわれては嫌がらせをうけている。バカ二人よりも女子生徒が青沢をいじめる時の方が遥かにやばい。私物を隠したり、ノート等に落書きしたり、青沢自身にわざとぶつかって青沢を転ばせては笑う。聞いた話だか、トイレの個室にいる青沢に水をかけて喜んでいるらしい。典型的ないじめ。だが、王道だからこそ辛い。

女子って一旦やる気をだすととまらないし、団結力が強い。そこなへんは普通の学校と大差ないが、権力や金がある分、もしバレても自分を守れる力があるのは正直怖いな。

 でも青沢は折れない。どんなにいじめをされても最後まで授業をうけていく。そんな青沢だからいじめは加速する。

 まぁ、一日の大体は授業をあり、青沢がいじめられて終わる。なんてつまらない学校ですこと。

 そんな生活が一週間過ぎていった。俺はいい感じにクラスに溶け込み、今では自分からいかなくともクラスメイトの方から話しかけてくる。……そろそろかな。

 ある時、青沢をいじめているクラスメイトが集まってるのを見た俺はそこの話し合いに参加した。

 「最近、マンネリ化してきたよねー」

 「たしかに。あいつのリアクションもあきてきた」

 「なんかいい手はないかな?」

 人は慣れてくると新しい事にチャレンジしたくなる。今までだって決してぬるくはない。青沢にとって。

 「なら、こうゆうのはどうでしょう?」

 俺は軽く助言する。

 「なるほどねー」

 「いいじゃん」

 皆悪い感じに笑みがでる。そして、俺は皆にさらにアドバイスをする。

 さーてどうなるかな?

 

 授業が昼休みになると、青沢はすぐに教室から出てご飯を食べに行く。しかも学園内にある飲食店からテイクアウトし屋上で食べるのが習慣だった。

 クラスメイトは青沢が屋上に行くのを見ると今だといわんばかりに集団で屋上にいく。

 「…………」

 いきなりあらわれたクラスの連中を警戒し、表情がくもる青沢。

 すると一斉に皆が

 「ごめんなさい」

 青沢を除くその場にいる全員が頭を下げる。

 「はぁ?」

 青沢は意味がわからないとフリーズする。すると 生徒達が申し訳なさそうに説明する。

 「本当に今までごめんなさい。私達は青沢さんにとんでもないことをしてしまいました。」

 「お父様にきいたの。青沢財閥との取引が始まると」

 「昔のように青沢財閥は大企業に返り咲くと」

 今まで青沢にしてきた事を考えれば、もし青沢財閥が以前と同じ力を手にしたとしたら自分達はどうなるのか軽く想像ができる。

 「……私にそんな情報は届いてない」

 青沢はなにか変だと疑ってはいた。だが……

 「これを見て」

 一人の生徒が携帯を出し画面を見せる。そこには青沢財閥の復活と大きくかかれていた。

 「ほ、本当に?」

 青沢は俺が来てから初めて表情が緩み、声が弾む

 「……はい」

 皆、暗い表情でうつむく。

 「あ、あんた達」

 そんな姿を見た青沢は

 「散々、私をいじめてくれたわね。なめんじゃないわよ」

 今までの不満、怒りが爆発する。

 「楽しかった?よかったわね。これから毎日お前らを楽しませてやるわ。ざまーみろ」

 「ごめんなさい」

 肩をプルプル震わせて謝る。すると青沢はしっかりと俺を見ると

 「あんたも私に逆らわなければいい学校生活ができたのにね。忘れてないわよ。あんたごときが私のお父様の会社を侮辱したのを」

 いや、終わった企業としかいってないけども。…俺やばいし。

 「とにかく、今度はあんた達が終わる番よ」

 青沢は鋭い目線を俺達に浴びせ、どや顔をする。

 「も、も、もう無理」

 すると肩をプルプルさせていた生徒達が大声で笑いだす

 「な、な、なんなのよ」

 青沢は戸惑う。

 「バーカ!嘘に決まってんだろーが」

 「え?」

 「何調子にのってんの?あんたの会社が復活するわけないじゃない」

 楽しげにそして容赦なく現実を青沢に突きつける。

 「……携帯の画面に」

 「あぁ~これ?これはね」

 先程の携帯を見せ

 「感謝してね。お金を使って作ってもらったの。このページを」

 青沢は自分の携帯を出し、すぐに検索をかける。そして力なく崩れ落ちる。

 「なかったでしょ?」

 「…………」

 青沢は言葉がでない。それどころか

 「あれー泣いてるよー」

 「うわぁーひくわー」

 青沢の目から涙が流れる。今までどんなにいじめられようと折れなかった青沢は今折れた。希望が絶望に変わったのだ。

 青沢の心の支えは青沢財閥だ。お父様がきっとなんとかする。だからそれまでは屈辱的でもなんでも耐えてみせる。物を隠されても、皆の笑い者にされても、無視されても、水だってかぶってやる。

 だって必ず青沢財閥は復活するとおもうことで耐えてきた。 

 そして、その時がきたのだと。

 「……ひ、ひどいよ」

 人は一度ガードがとれたらもろい。青沢は前の青沢には戻れない。

 「いい気味ね。これからもよろしくねー」

 青沢が折れたのをみて、満足そうに屋上から立ち去っていった。

 

 俺は皆が立ち去った後もその場に残り崩れ落ちて地面から起き上がれない青沢の姿を見て話しかける。

 「いやー見事に踊らされましたね。バカですね」

 俺は青沢にこれでもかとたたみかける。

 「これからも変わらない日常がきますね。孤立し、いじめられ、皆の笑い者される」

 青沢の肩がピクリと反応する。

 「頼みの綱のお父様もダメ。あぁーお先真っ暗ですね」

 青沢は顔だけ上げ涙で腫れた目で俺を見る

 「……なんで?」

 「はい?」

 声を震わせて俺に聞く

 「なんでこんなことするのよ」

 俺は笑みを浮かべて青沢に返答する

 「現実をみれてないからですよ」

 「げん……じつ?」

 「プライドばかり強く、人の痛みも理解できないお嬢様。現に会社が復活したと聞いた時、あなたは復讐心が真っ先にきた。自分が苛められて辛い思いをしたのに。やられてはやりかえすでは終わらない」

 「…………」

 「それに今のあなたの状況はあなた自身が招いた結果でもある」

 「……私が」

 「以前の自分を考えてください。逆らえないことをいいことにあなたも似たような事をしてたんでしょ?」

 以前の自分を思いだしているのか口ごもる。

 「……うるさい」

 「…………」

 「いまにお父様が……」

 俺はその一言が出た瞬間、青沢に駆け寄り真剣な表情で怒鳴る

 「そのお父様は終わったんだよ」

 「……な」

 「お前が頼りにしてるお父様は終わってるんだ。現状を理解しろ。甘えるな。本当はわかってるんじゃないか?」

 「……やめて」

 「人は自分自身の力でしか変われない。今お前に必要なのは一歩踏み出す勇気がなんだよ。青沢」

 「……………」

 青沢は本当はわかってる。でも認めたくなかった。認めれば父親を恨んでしまうかもしれない。今の状況だって自分が皆にしてきたことのつけがまわってきてるのに父親のせいにしてしまう。人は弱い人間だから。だから父に甘え自分に言い訳をして状況が復活することに希望を抱いたし未来をみた。……本当はダメかもしれないとわかっていても。じゃないとプライドの高い青沢は消えてしまうから。

 「青沢……しっかりと現状と立場を理解しろ。今できることはお父様を希望にすることじゃなく、一人でも立ち上がる力を身に付けることだ」

 俺は青沢の体をゆっくりと立ち上がらせて優しく言う。

 「今の状況が最悪な時、二つ選択肢がある。すべてを諦めて現状を生きていくこと」

 俺は青沢の目をしっかりと見据えた

 「もう一つは現状から立ち上がり今いる奴らより上の立場になることだ」

 「…………上の立場?」

 「あぁ、今までのような力で押さえつけるようなことはなしだ。皆から信頼されて上にたつんだよ」

 「そんなこと……できるわけ」

 青沢は下を向く

 「生徒会長になるんだ」

 俺の言葉に驚いたのか、青沢は顔を上げて俺を見る

 「はぁ、生徒会長?」

 「あぁ、生徒会長だ。この学園の頂点だ」

 「あんたバカなの?いってる意味わかってんの?」

 知ってるわ。簡単じゃないのもな。

 「お前なら知ってるよな。この学園の生徒会長なった者のメリットを?」

 「……知ってるけど」

 「なるしかないだろーよ」

 「簡単に言うんじゃないわよ!なりたくてなれるようなもんじゃないわ」

 そんなことは関係ない。なるしかないならやるしなかい。俺は青沢にとって一番きく言葉をいう。

 「お前が生徒会長になれば、会社が救われるぞ。それに少なくとも行動しなければ0%なんだ。なら数%あるならやる価値はある……それに」

 「…………」

 青沢は考えるが正直答えは決まっている。

 「俺が味方になるんだからな!」

 俺は笑顔で青沢に言う。

 「……味方」

 今までは敵意の中でも生きてきた青沢にとって、その一言は強く心に刻まれる。俺が今まで嫌な役割をしてきたのは、最初からいい奴を演じても受け入れてもらいないからだ。一度敵として認識を持たれた方がいざって時に以外と心につけいりやすい。まぁ、簡単に言えば恋愛でも印象が悪い奴の方がたまに優しいことをすると好感度がかなり違うてきなやつだ。

 「あんたの目的は何?」

 「……秘密だ。だが、お前を生徒会長にする方が俺には都合がいい。時期がきたら教えてやるよ」

 「偉そうに。てかキャラかなり違うし」

 「嘘も方便だ。信用した奴しか見せないからありがたく思え」

 「……意味わかんないっての」

 「で、どうすんだよ」

 俺は先程の件の答えを知りたい。正直……緊張するんだよ。

 青沢は数秒黙り、考えて、吹っ切れた様子で

 「……やるわよ。やってやる。私は生徒会長になって人生を変えてやるわよ」

 「……決まりだな」

 「裏切ったら殺すわよ」

 そんな怖い言葉だったが、青沢の表情は可愛らしく笑顔だった。


 


  

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