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捕らわれ詐欺師とお嬢様  作者: モトキ
20/22

捕らわれ詐欺師とお嬢様

 青沢陣営にも今回の対決のお題が知らされ、各陣営が動き始めた。それと同時に学祭の実行委員会から通達がくる。今回の対決の場所が決まったのだ。

 「運動場か!」

 「そのようね。まぁ、どこでもいいわよ」

 花城は興味がないと言わんばかりにおざなりに答える。花城にとって大事なのは同じ場所で隣同士でやること。そして条件は叶う。

 「これは偶然か?」

 「………偶然って怖いわねー」

 あぁー。手回ししてる。だって花城さんの顔が笑顔だもん。

 「それより今日からやるわよ。店の設置は学祭当日までに業者にやらせるから心配ないけど、物を作るのは私達だかね。これから毎日授業後にプロの方に指導してもらい最高の商品を提供できるようにする。接客もね」

 あぁーー。俺の貴重な休息時間がまた削られる。……つらい。

 「……了解」

 

 学祭まで二週間。花城は学祭までの間のプランを花城陣営に伝える。接客担当、レジ担当 宣伝担当、商品製作担当にわかれ、放課後にその道のプロに教わる。レジ担当のプロってなんだよ!って思うが、実際にレジが遅いと稼働率が下がり売上に影響する。商品も何を作るか花城があらかた決め製作担当に伝えそれを作れるように指導をうける。講師も食材も花城が依頼し管理するとのこと。手際のいい花城に対しクラスメイト達は尊敬と憧れが増す。学祭までの二週間は毎日居残りだと言うのに不満の声はない。見事にコントロールされている。利用されているな。……バカかよ!!毎日居残りだと?俺は騙されないからな。後で残業代を要求しよう。……焼そばパンでいいから。強気にいくからな。なめるなよ!くそが!!

 もちろん数秒で却下された訳だが、花城の指揮の元、各自動き始めた。ちなみに俺は接客とのこと。

 「花城。なんで俺が接客なんだ?」

 俺は誰もいない時を見計らい尋ねる。

 「別に。あんたが作った物よりイケメンかかわいい子が作った方が売れるでしょ」

 なるほど。戦争の開始だ。

 「いやいや、俺もなかなかの顔だろ?」

 自信はある。詐欺師として何人もの女性をおとしてきた。結婚詐欺はしていないが、情報を得るためにおとしてきたんだ。

 「まぁ、中の上。あんたよりいい顔の男はくさるほどいる。お前は黙って接客しとけ」

 なるほど。終戦だ。

 「……わかりました」

 「まあ、懸念は潰すだけだ」

 つまり俺が異物混入とかの妨害対策をしたわけね。しねぇーよ。

 「とりあえずは接客に集中しろ。お前は口はうまいから期待してるぞ」

 花城は満面の笑みで俺に伝える。


 花城陣営が動き出した頃、青沢陣営も動きだす。店の設置や食材に関しては業者に依頼するようだが、人材も少ないこともあり青沢陣営はやるべき事は全員で覚え店をまわすみたいだ。ただ、プロの指導はうけず、自分達で話し合い試行錯誤しながらやっている。その姿は大変ながら楽しそうだ。一方花城陣営は決められた事をすくすくとこなしまるで機械のようだ。

 「……皮肉な光景だな」

 状況は不利だし、圧倒的に勝ち目は薄い。ただ、今を楽しんでやっている青沢達は花城より表情が柔らかい。花城にとっては勝つことが全て。楽しむなんて考えてない。当たり前だ。あいつはたぶん今まで楽しいと感じて物事をやってきていない。許されない世界にいた。

 俺は花城を見る。そこには笑顔でクラスメイトと話す花城がいる。作り笑顔の花城を見ると俺は思う。優勢的ではあるが、あくまで表面的だけの関係である花城に対し劣性だがそんな中でも楽しさを共有できる仲間ができつつある青沢。

 「やっぱり皮肉な光景だ」

 俺は呟き接客の練習に励むのだった。


 学祭まで一週間をきり、花城陣営は各々準備ができていた。各担当者は店がいつオープンしてもいいレベルまできている。花城も現段階に納得している。青沢陣営はやはり苦戦している様子だ。

 

 「あぁー!!難しいわね!接客って!」

 青沢は吠える。接客をしたことがない青沢は少し苛立ちを見せていた。

 「青沢さん!なんで接客中にタメ口になるの?まずそこは直して」

 真木は呆れながらに指摘する。

 「うぅ。わ、わかってる」

 「なら、最初からいくわよ」

 「うん」

 真木は青沢に接客を教えているようだな。俺は遠目から見守る。

 「ご、ご来店、あ、ありがとうございます。ご、ご注文はきま」

 「お!!」

 「ご、ご注文はお決まりですか?」

 真木から速攻で訂正がはいる。いやいや、冗談だよな?

 「お勧めはある?」

 「たい焼きです」

 「なら二個ちょうだい。はやくしてね」

 あぁー。少し厄介そうな客の想定か。大丈夫か?

 「……か、かしこまりました」

 おぉ!意外にできるじゃねぇーか。顔はひきつってるがな。

 「青沢さん。表情は怖い。笑顔!笑顔で」

 青沢は渾身の笑顔を見せる。

 「お、お買い上げありがとうございました」

 「ププ」

 しまった。思わず笑ってしまった。やばいなー。

 「はぁ?!」

 青沢が顔を紅くして般若のごとく俺を睨み付ける。そして俺に近寄ってくる。来るな!!花城を意識し、周りを見渡すが幸いにも姿は見えなかった。

 「あんた、今笑ったよね?なに?なにが面白かったわけ?」

 「いや、笑ってないよ」

 「はぁ?しっかりと聞いてたんだけど!喧嘩したいなら言って。買うわよ!」

 「いや、怖いよ。……わるかったよ。邪魔するきなんてない。単純に笑えたんだ」

 「よし。怒りが倍増したわ」

 青沢は俺の足を踏みつける。やめろー!痛い痛い!!

 「次、笑ったらえぐるから」

 「はい。すいませんでした」

 青沢は気がすんだのか戻っていく。暴力反対だ。えぐる?どこの部分ですか!!そんな事を思っていると花城が姿を見せ俺を呼ぶ。

 

 「たく!あいつはムカつくわね。ごめん。再開しよ」

 青沢が戻り真木に話しかける。

 「青沢さん」

 「なに?」

 真木は少し微笑みながら

 「今の表情のまま接客をしましょ」

 「え?」

 「今の青沢さんの表情……すごくいいから!」

 「…………」

 青沢は無言でうつむき顔が紅くなる。

 「やっぱり敵わないわ。宮場君と話す青沢さんが一番楽しそうなんだもん」

 「………別に……違うし」

 ボソッと呟き頭をブンブン振り顔をあげる。

 「絶対に負けない!」

 「そうね」

 青沢達は気合いを入れ直し練習を再開する。

 

 放課後の練習も終わり、花城から解散の指示がでる。

 「よ、ようやく解放だ」

 俺は疲弊していた。何故なら一時姿を消していた花城が戻ってくると明らかに機嫌がわるくなっていた。クラスメイトにはニコニコしていたが、俺に対しやけに攻撃的だった。まぁ、いつもの事だけど。

雑用やらいろいろこき使われた。原因は姿を消した数分の間になにかあったんだろう。電話かな?時間的に。学校内で怒られたりはしないだろうし。花城が日常的にストレスは溜まっていても、あんな短時間で豹変するのはおかしい。電話の相手は……誰だ?

 「いや、今日はいい。今日ははやく帰って漫画を読もう。漫画はいい。読んでいる最中は全てを忘れられる」

 いや、わかるよ。そんな立場じゃないことも状況でもない。ただ人間はリフレッシュもいる。常に気をはっていたら疲れる。肝心な所で失敗するからね。だから休むことは大事なんだ。うん!

 俺は自分に言い聞かせ足早に教室から出ようとする。

 「あ、宮場さん。申し訳ありませんが、学園祭の事で相談がありますの」

 悪魔の声が聞こえる。嫌だ。帰る。帰らせてくれ。

 「少し付き合ってくれませんか?」

 誰でもいい。た、助けてくれ。

 「……はい」

 誰も助けてはくれなかった。むしろ、妬みの視線が突き刺さる。花城さんに誘われるとか羨ましいとか勘違いしてやがる。本当に嫌すぎる。

 

 俺は強制的に花城に連れられ学校を出た。

 「あのさ!頼むから今日は解放してくれ」

 頼むから。後生だから。お願いします。

 「解放だと?なめるなよ!」

 花城はまわりに生徒がいないとみるや素が秒ででる。

 「わかったけどなんでそんなに機嫌がわるいんだよ?」

 「…………」

 「電話は誰からだったんだ?」

 「………見てたのか?」

 はい。当たり。まぁ、見てないから知らんけど、もう少しカマかけるか。

 「まぁーね!電話してるお前の表情が険しくなってたからな」

 「クソが!」

 はい。当たり。理由はさすがにわからないな。けど、相手はだいたい検討がつくな。………親かな。

 「理由はきいていいのか?」

 「はぁ?いいわけないだろ!!てかどこ目線で話してる?お前は私の友達か?」

 「いや、それは無理があるな」

 「なら聞くな」

 めんどくせー!!!

 「で、どこにいくんだ?」

 「……別に」

 「…………」

 目的は特になしか。なら!

 「花城!!なら逆に付き合え」

 俺は花城にニッコリ笑いかける。

 「はぁ?!」

 花城は予想してなかった言葉に驚く。

 「さぁ、いくぞ!」

 驚く花城の前を歩きついてくるように促す。


 着いたのはある場所

 「プラネタリウム?」

 そう。俺が連れてきたのは敷地内に設置されているプラネタリウム館だ。さすがは天命学園。なんでもあるな。ちなみに俺はたまに利用する。

 「そうだ。入るぞ」

 「いや待て。なんで星なんて見ないといけないんだよ」

 花城は不思議そうに尋ねる。

 「まぁ、目的もないんだろ。ならせめて俺に付き合ってくれよ」

 「お前………私との立場」

 花城が言い終わる前に俺は歩き出す。

 「ならそこにいろよ」

 「あ………くそ!!」

 花城も後ろからついてくる。

 俺と花城はまわりに客がいない所に着席する。てかプラネタリウム自体があんまり人気がない。まぁ、高校生なら違う所行くわな。

 「なんで今さら星なんか見ないといけないんだよ?」

 花城は不満タラタラな様子だな。

 「今さら見たくもねぇー!くそつまらねぇー!星の知識なんて頭にはいってるんだよ」

 「どうだかな?」

 すると室内が暗くなりナレーターが語り始める。

 「なぁ?花城。目を閉じてみろよ」

 「はぁ?プラネタリウムに来て目を閉じてどうするんだよ」

 「いいから」

 俺も花城に言うと静かに目を閉じる。俺が目を閉じると花城も静かに目を閉じる。

 目を閉じると暗闇に包まれる。ナレーターの声だけが鮮明に耳に伝わる。地球の始まり、惑星、星、それらの物語。綺麗に聞こえるがけして綺麗なことばかりじゃない。歴史があればそれだけの痛みや悲しみがある。人間だって一緒だ。不安や悲しみもある。でもそれらを乗り越える力だってある。

 「なぁ、花城」

 目を閉じたまま語りかける。

 「…………」

 花城もまた目を閉じたまま静かに聞いている。

 「今お前は何を考える?」

 「…………」

 「俺は自分自身の事を考えてる」

 「どうゆう意味だ?」

 「今も昔も変わらない。ろくでもない人生」

 「…………」

 「本当にいつも迷ってばかりだ。不安や逃げだしたい気持ちもあるし弱い人間なんだ。心に迷いがあるとここに来る」

 「……………」

 「目を閉じると暗闇でさ、不安にかられる。でも………」

 俺は目をゆっくり開ける。

 「花城もゆっくり目を開けてみろよ」

 俺の言葉に花城もゆっくりと目を開け花城は上を見上げ静止する。


      そこに見えるのは無数の星と光


 「……綺麗」

 花城は思わず口からこぼれる。

 「目を開けたら無数の星と光が見える。暗闇にいたら光に向かい歩けばいい。だから俺はまた、迷わずに歩き出せる」

 「花城が何を不安に思い、悩んでいるかは知らないが……」

 俺はニッコリ微笑みながら

 「悪くないだろ!プラネタリウムも!」

 花城は俺の顔を見ると

 「えぇ……わるくないわね」

 優しく微笑む花城は今までで一番綺麗な表情だった。


 プラネタリウムの上映が終わり俺達は歩きながら自宅に戻る。

 「宮場」

 「なんだ?」

 「やられた。なんかムカつく」

 「そーか」

 花城は少し照れた様子で小さな声で呟く。

 「今日だけに関してはありがとな」

 「今日だけですか?」

 最近は大変思いをしてるんだけどなー!!

 「うるさい。調子にのるな!!犬のくせに!!」

 コラ!耳を引っ張るな!やめてくれー!!

 たわいもないやり取りをしているうちに花城が住む寮につく。

 「じゃあな」

 俺は手だけ振って自分の寮に戻るため歩き出す。


 「………またな」

 花城は俺に聞こえないように呟き小さく手を振る。


 あぁー疲れた。本当に疲れた。風呂はいって寝よ。疲れた足取りで帰宅する俺はそんなことを思い歩くのだった。

 

 

 


 


 


 

 

    

 

  

 





 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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