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捕らわれ詐欺師とお嬢様  作者: モトキ
15/22

捕らわれ詐欺師とお嬢様

 次の日、真木の噂を話す生徒はいなかった。後藤は花城リカに頼み火消しをお願いした。嘘の噂や合成写真を作り、真木を陥れた事を花城だけに話した。花城に頼むように言ったのは俺だったりする。花城には真木の過去などは言わず、今回の騒動は私怨からおこなったことを伝えた。後藤からしたらあのボイスレコーダーがあるから従うしかないし、むしろ感謝してほしい。あれが表にでたら後藤は終わる。

花城は後藤の申し入れをききいれた。結果的に花城が他の生徒に真木の件を否定する事でこの件は静かに消えていった。それだけ花城リカの力は絶大だった。


 「ありがとう。あなた達がいてくれて本当によかった」

 真木は深々と頭を下げる。俺達が去った後、川瀬夏見と長い時間話をしたらしい。過去の事やこれからの事。互いに色々と間違えたり遠回りをしたが最後は互いに笑いあえたらしい。

 ちなみに俺と青沢と真木は学校が終わり、学校の敷地にあるいつものカフェに立ち寄って話をしている。

 「お礼なんていいから。私がしたくてした事だから」

 青沢は少し照れた表情をみせ、手をブンブンとふり落ち着きがない様子だ。

 「まぁ、うまくいってよかったよ」

 俺はコーヒーを飲み安堵する。一息つくとさっそく青沢と真木に今後の事を相談する。

 「さて……これからなんだけどな。青沢が生徒会長に立候補するにあたり一番重要な人物。……花城をこちら側につける」

 俺は二人をゆっくりと見渡し力強く伝える。若干1名は露骨に嫌な表情をみせる。

 「そうね!花城さんの力は絶対に必要だわ。もし味方にできなければ立候補自体が無意味だと思う」

 「…………」

 「その通りだ。花城なしではクラスはまとめられない。青沢が立候補してもクラス票すら得られない。クラス全体が青沢をクラス代表の立候補と認め、団結しなければいけない」

 でなければ立候補しても負ける。しかも惨敗だ。目もあてれないほどに。そして俺はなんらかのペナルティと檻に戻ることになる。

 「花城は絶対に味方につける。その為にどうすればいいかだが?」

 俺は二人に目線で問いかける。真木は考えている様子だが、青沢は少し困った表情する。

 「うーん!私、花城から嫌われてるからなー。あんたの指示で一応は謝って和解みたいになったけどさ!」

 はぁーとため息を漏らしながら下を向く。おいおい!ため息つきたいのは俺と真木だからな!!

 「……真木!そんなに昔のこいつはひどかったのか?」

 「…………」

 真木は困った様子でチラリと青沢を見る。

 「あんたもたいがいに嫌な奴よね。まぁ、私が悪いから言っても大丈夫だよ」

 真木は少し困った表情を見せる。

 「…た、たしかにクラスでかなり…目立っていたかな。花城さん達を従えてたし、特に花城さんにはあたりが強かった印象だったかな」

 まぁ、かなりオブラートに包んだ言い方だな。

 「つまり威張りつくしてたんだな。てかなんで花城にあたりが強かったんだよ?反抗的な態度とかあったのか?」

 「ない」

 即答だな!!

 「じゃ、なんでだよ?」

 「気持ち悪かったのよ。他の奴等はニコニコしててもそれなりに反抗的な部分があるのに対して、あいつはなにをしても笑顔でいて私に話しかけてくる。逆に気持ち悪くて……つい」

 ……わからなくもない。正直違和感はバリバリだ。口では優しく誰にでも平等。青沢に対しても直接的にはなにもしていない。まぁ、いじめから助けようともしてないが。少なくとも良くは思ってない。ただ、青沢が謝り受け入れた事で一応は和解をした形だ。だからこそ現在は表だっていじめはない。

 「真木から見た花城はどうだ?」

 「……完璧かな。みんなが憧れるのはわかる。天命学園で花城さん以上の家柄ってそんなにいないの。でも誰にでも優しくて頭も良くて容姿も文句ない。正直悪いところが見当たらない」

 妥当だな。俺も普通の高校生なら違和感はなかっただろ。でも見てきてるからな。さんざん昔に人間の本質ってやつを。果たしているだろーか?そんな完璧な人間は?少なくとも俺は出会ってない。

 「正攻法でいくのはダメなの?花城さんに素直に話してみるのも手じゃないかしら?」

 それはない。表面上は協力をするかもしれないが、必ず花城は邪魔をする。

 「待ってくれ。少し考えてみる。とにかく花城の情報を集めよう。とりあえずは定期的に話し合いだな」

 情報が少なすぎる。とりあえずは様子をみるか。

 ふと時計を見ると夕方の16時になっていたので解決策はでないままだったが俺達はカフェを出た。雑談をしながら自宅に帰ろうと歩き出すも不覚にも今日使用した体操服を教室のロッカーに置き忘れたのを思い出した。最近は暑い日が続いているので洗濯は必須。女子に嫌われてしまうぜ。清潔を保つのがモテる秘訣だ。あぁー彼女希望。

 俺は二人とわかれ教室に向かう。

 「めんどくさいな」

 校内には人は少ないというか下校のチャイムが鳴り、みんな帰っていく。普段は人が多い校内も今はいないし静かで少し不気味すらある。窓から見える夕焼け空がやけに虚しく感じる。なんなんだろう。学校って不思議だ。そうこうしてる間に自分の教室に着く。

 「???」

 なんだ?誰かいる!とっさに隠れ俺は目を凝らしよくみると今話題の女性が一人教室の窓から外をみている。

 「……花城」

 なにしてんだ?てか、教室に入りにくい。なんか邪魔するのもわるい気がする程に似合ってる。美女が夕焼けに佇む。……エクセレント。

 

 ガタン!!!!


 俺はバカな事を考えてるといきなりものすごい音が教室から聞こえた。

 「な、なんだー?」

 俺はすぐに教室に目を向ける。教壇が見事に倒れていた。そして……そこには鬼がいた。

 「あぁーー!!イラつく!マジでイラつく!やってらんねぇー!」

 え?……誰??いや?……誰?この鬼は誰なんだー!!

 「青沢くらい登校拒否にしろや!てか、なんであいつに友達できてんだ?クソが!真木の野郎!それもこれも宮場の野郎!許さねーぞ!」

 ヒィーー!!ロックオンされてる。い、いかん!離脱だ!

 俺は正直焦った。違和感は花城にはあった。でもあれは二重人格だ。とりあえず逃げろ!

 

 ガン!!


 「……誰?」


 俺のバカ!壁にぶつかるなんて!ドジっ子主人公かよ!仕方ない。


 「こんばんわ」


 俺は今来たばかりだといわんばかりに笑顔で花城の前に出る。花城は俺を見るやニコリと笑顔になり話しかける。

 「どうしたんですか?もう下校の時間ですよ!宮場さん」

 「実は体操服を忘れまして。取りに来たんです。花城さんこそ一人でなにしてるんですか?」

 俺はゆっくりとロッカーに向かいつつ雑談をする。

 「先生方に仕事を頼まれまして、もう終わりましたけど夕日が綺麗でみとれていたんです。フフ」

 「そーなんですか。大変ですね。たしかに綺麗ですね。でもそろそろ帰りましょう。怒られますからね」

 体操服を持ち俺は笑顔で花城に手で合図をする。

 「ええ!!行きましょう」

 花城は俺の傍に来ると笑顔で笑う。

 「はい!!では」

 教室を出ようと一歩踏み出すと力強く肩を掴まれる。

 

 「ではじゃねーよ!!クソ野郎!見たんだろ?」

 

 いやーー!!やっぱり駄目でしたか。

 「あの?は、花城さん?何を言って………」

 一応はとぼけてみる俺。

 「次、とぼけたら社会的に潰すぞ」

 …………怖い。

 「はい!わかりました」

 「よし!!なら聞くがこのことは」

 「いいません」

 「即答か。まぁいいや!どうせお前がいった所で信じてもらえねぇーからな」

 「ですね。正直ビックリです。なんでそんな演技を?」

 「……別に!理想の女性を演じた方が生きやすいだけだ」

 「なるほど!!」

 「どんなに力があろうが一つのミスで潰れる。おまえの身近にいるだろ?バカが!」

 「青沢さんですか?」

 「あぁ!あいつは調子にのりまくりだったからな。親に力があるときはいいがなくなれば終わりだ。今までのつけがくる。惨めなもんだ。さんざん私を下にみてたのに。あいつがいじめられてるのを見ると楽しかったね。でも私からはしない。理想の女性はしねぇーだろ!いじめなんて!平和主義で誰にでも平等だ」

 あぁ!こいつはやばいな!ある意味異常者だ。

 「たく!!ヘドがでる!平和とか平等とかに興味なし。クラスの奴等も他の奴等もな!青沢をいじめさせて楽しんでたのに……最近はつまんない。お前が来てからだ。お前がなんかしてんだろ?じゃなきゃあのプライドの塊が謝ったりしない」

 心底つまらなそうに俺を睨み付ける。

 「くだらない夢を見るのは勝手だが、私の楽しみを奪うならお前も敵だ。青沢から手をひけ!!」

 花城は今にも俺を殺すといわんばかりに睨み付ける。

 「……できない相談ですね」

 俺は冷静に花城の目をしっかりと見つめ答える。

 「へぇー。言うね!……理由はなんでたよ?」

 花城は少しニヤリと笑い俺を試すように聞いてくる。くそ。誤算だ。予想?いや違うな!確信に近いな!青沢を生徒会長にする為に動いてる事。できるなら避けるべきだが、今さら隠しても後手にまわるだけか。

 

「俺は青沢を生徒会長にする。だからひくことはできない」

 

 やはり俺の言葉や言葉使いを聞いても花城は驚く事はなく、むしろ楽しそうにしていた。

 「なるほど!こっちが本性ね!まぁ、わかってたけどな」

 「……何故?」

 「何故?まぁ、似てるからだろーな。お前は私にそっくりだ」

 「お互い様だな。まったく同種同士はすぐにわかる」

 俺が呆れながらに言うと、花城は心底楽しそうに笑い頷く。

 「で、本題なんだが青沢の件はなぜ知ってる?」

 「生徒会長の件か?……私がこのクラスを支配してる事もあるが、まぁ、理由は色々とある。真木の件もあるしな。それにあいつが這い上がるなら生徒会長になるしか道はない」

 「なるほど」

 「まぁ無理だろーがな!細かい理由は何個かあるが大きくわけて2つ。まず、青沢だけが立候補をするわけじゃない。そして立候補するだろう相手がお前達にとって悪すぎる。次に……私はお前らに協力しない」

 花城は先程とはうってかわり真剣な表情で冷静にいう。たしかに立候補者が青沢だけではないことはわかる。あの花城の言い方。競いあう相手はかなりの大物。だが、今は後者の方が問題だ。

 「協力はしないか。………何故青沢を嫌う?俺が転入する前にいろいろとあったからか?」

 「………」

 「あいつは十分自分のしたことに対して報いをうけた。プライドは砕け散った。花城もある程度は満足だろ?」

 「まぁーね」

 「なら花城は何故青沢にこだわる?何をしたら青沢を許すんだ?」

 「許す?和解はしてんだろ」

 「建前は今は必要ない」

 「………」

 花城は少し考えるように黙り、俺からも視線を外す。

 

 数分の時間が流れ、静かにしゃべりだす花城。

 

 「私は物心つく頃にはいろんな大人に囲まれて生きてきた。汚い大人の世界。そんな私は両親から厳しい教育をうけて育ったよ」

 花城は優しい声色だったが表情は違う。怒りだ。

 「世間体を気にする親なんだ。私の日常はロボットみたいに決められた時間に決められた事をする。遊びなんてない。本当になんの為に生きてるのかわからない」

 学生であるが学生じゃない。この学園にいる人は将来大方の進路は決まっている。親の跡を継ぐ。幼い頃から厳しい環境で生きてきている。花城の家柄をみるや他の連中とは比べるまでもない。

 「愛想よく、誰にも優しく、気が利いて誰からも好かれる私でいなければいけなかった。完璧を求める親。完璧を期待する周囲。でも仕方ないと思った。親が親だし」

 幸せとは何か?それは人それぞれに違う。金や地位を持っていても幸せと問われればわからない。もちろんないよりいいだろう。俺なんかすれば羨ましい。でも極端に言えば貧乏でもその人が満足なら幸福なんだろう。だって心の問題だからな。

 「私は必死に作り上げたわ。完璧な私を!それこそ人生を費やしてね。学校でも変わらない。理想の私を演じた。そんな時」

 花城は俺をまっすぐに見る。

 「父は仕事で青沢財閥に協力をしてもう為に私に青沢の機嫌をとるように言った。仕方ないから青沢にできる限り尽くした。でも青沢は……」


 すると花城は体を震わして強くいい放つ。

 

 「ニタニタしないでよ!気持ち悪い!すぐにやめて!なんかあんた見てるとイライラするのよ……ってね」


 青沢らしい一言だ。オブラートなんてつつまない。言葉を選ばない。あいつは良くも悪くも正直だから。

 「たわいもない一言だよ。でも……私にとっては最高の侮辱で屈辱でもあった。私の人生を否定された気分だった」

 花城は軽く息を吐き心を落ち着ける。

 「まぁ、すぐに会社が落ちぶれて青沢に対しイジメが始まった。それにともない私のクラスの地位も戻った。もちろんイジメをとめない。参加もしないけどね!」

 「だから私は青沢が嫌い。なんなら退学にしたいくらい。でもさせないわ。苦しむあいつを見たいから」

 「なるほど。協力はしてもらえそうにないな!」

 「安心して。イジメなんて飽きてきたとこ」

 花城は何かを思いつき俺の方を見て微笑む。

 「あなたが今後私に尽くす。そして青沢さんから距離をとれば形だけでも選挙の手伝いをしてもいい」

 「青沢をまた孤立させる気か?真木もいるぞ」

 「真木さんもやっかいではあるわね。でも青沢にとって現在あんたがあいつの支えになってる。一番ね」

 「勘違いだ」

 「それは私が判断すること」

 花城は楽しそうに俺を見る。そして俺に選べる選択はない。花城は絶対に必要だ。今は従うほかない。……今は

 「わかった!約束しよう」

 「フフ。楽しみ!長くなりました。それでは帰りましょうか!くれぐれも他言のないようにお願いします。言えばわかりますよね?」

 花城は鞄を持ち、屈託のない笑顔で笑うと教室からゆっくりと立ち去った。その後ろ姿はまさに天使なんだが。……いやはや悪魔かな。

 見事にやられた。詐欺師が詐欺にあった気分だ。

 「とりあえず帰ろ」

 俺は忘れてきた体操服をしまい窓から見える夕日を見る。

 「嫌な時に程綺麗にうつりやがる」

 小さく呟くと俺は疲れた表情をし家に戻った。

 


   


  

 

 

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