捕らわれ詐欺師とお嬢様
様子がおかしい真木が体育館から立ち去るのを後ろから考えるように見ていると仕事を終えたサラリーマンのように疲れた表情で青沢が近寄ってくる。
「ちょっとー!!あんたサボってんじゃないわよ!」
「いや、少し考えていたんだよ。……お前はどーだった?」
まぁ、言わなくてもわかりますけどね。
「ムカつく!!せっかく私がコミュニケーションをはかろうと近づくと害虫がでたみたいに離れていったわよ。私はゴキブリか!」
お怒りの青沢は俺の体をガタガタと揺さぶる。た、たすけて!人の形をしたゴキブリがここにいます。離れてよー!
「気にすんな。そうなることはわかってたろ」
「……まぁ、嫌われてるし。でも……私だって感情はあるのよ」
青沢は唇を浅く噛んで悲しげに呟く。
「その感情は大切に持ってろよ」
「え?」
「喜怒哀楽をしっかりと学んでいけ。これから積み重ねていけばいい。積み重なっていけば今お前が感じている辛さはなくなっているさ」
「……うん」
青沢は自分の顔を叩き気持ちを切り替える。過去は戻らない。してきたことのケジメはうけていくだろう。でも人は変われる。チャンスを生かすも殺すも彼女の次第だろう。
「よし。切り替えついでに質問だ。後藤太一って男をしってるか?」
「後藤太一??」
うぅーと考えているがピンとはこない様子。まぁ、期待はしてないけど。だって青沢さんだもの。
「父親が自動車関係の仕事をしているらしくてな。顔は整っていてイケメンだ。スタイルもなかなかだな。しかしチャラ男だ。……女子生徒を連れまわしやがって……なめんなよ……クソ」
「……最後の方は妬みじゃない?」
青沢のジト目がつきささる。
はぁ!!お、俺だってどっちかと言えばイケメンの分類にはいるし!まぁ、俺ってモテるとか興味ないタイプだし。彼女とかいても寂しい思いさせるじゃん。だから、ほら、詐欺師だし。あえてね。
「と、とにかく知らないのか?……噂でもいいぞ」
青沢は必死に記憶を掘り起こす。
「……無理だわ。興味の欠片もない人間は覚えられない。なんならうちのクラスの奴の半分も名前とかしらない。」
「いや、わりとそこは覚えろよ!人と関わるなら名前くらいは最低限のマナーだからな。」
「わ、わかってるわよ。今勉強中!」
彼女にだけ新しい科目が追加されました。乙!
「それでそいつがなに?」
「あぁ。どうやら真木と過去になにかあったみたいだな。」
「真木と?なにがあったのよ?」
「後藤と接触してから真木は様子が明らかにおかしくなり体育館を立ち去ったよ。なにか耳打ちしてたな。」
「はぁ!!マジであんたバカ?普通傍にいてあげるでしょ!!」
青沢は怒りをむき出しに怒鳴る。なんなら唾も顔面にかかる始末。
「青沢……そこは俺の役目じゃない」
俺は体育館の出口を見ると手で行ってこいとの合図をだす。そしてハンカチで顔も拭く。
「役目なんて誰だって……いってくる」
青沢は納得はいっていない様子だった。だが真木が心配になりどこにいるかわからない真木を探すために急ぎ足で体育館から出ていった。
「……さてと」
あの様子だと後藤太一はこれからなにかアクションを起こすだろ。その前に情報でも集めますかね。たく探偵じゃないんだけどな。
交流会は終わり各々が教室に戻り帰宅準備をする。俺は後藤や真木について他クラスの連中に話を聞いてみたのだが過去になにかあったとまではわからない。だが、それなりに収穫はあった。天命学園は小中高一貫校なのだが、中等部時代に後藤と真木は同じクラスだった。また真木には親しい女性の友人がいたらしい。名は川瀬夏見。しかし、川瀬は高等部に進学する際に外部受験で違う高校にいっている。聞いた子達も何故川瀬が違う高校にいったのかわからないらしい。記憶自体が薄れてはいるがクラスで大きい揉め事はなかったという。後藤に関して言えばも今とかわらずモテていたみたいですね!やだやだ!
「中等部時代になにかあった。それは間違いない」
原因はわからんけど、当時のクラスメイトがなにも知らない事を踏まえると表にはだせない内容か……。
「まぁ、ダメもとで協力要請をしてみるかー!」
俺は携帯を取り出して江夏さんにメールをする。
すると意外にも早く返信がかえってきた。俺は内容を確認して携帯をしまう。
「頼みますよ。江夏さん」
さてと青沢は真木を見つけたかな?俺は二人を探しながら教室に戻るも二人はいなかった。
「なら、たぶんあそこかな?」
俺は定番の屋上に向かう。
「やっぱりいた」
二人が話をしている様子を確認しズカズカと二人に歩み寄る。
「お二人さん!交流会は終りましたよ」
二人は俺の声に気づくと話をやめて俺に話しかける。
「なんであんたがここに?」
「なんでって、心配したからきたにきまってるだろ」
「うそばっかり」
二人は冷たい視線で俺をみる。いやいや嘘はいってないよ!
だってこの先の人生不安だもん。
「まぁ、なんだ……少しは落ち着いたか?真木?」
「……………」
真木は無言で俺を見るもその表情はやはり心ここにあらずな様子に見える。
「真木!俺なりに調べさせてもらった」
俺の言葉に真木の体がピクリと動く。
「中等部時代に後藤とはクラスが一緒だったみたいだな?」
「……中等部?」
青沢は不思議そうに聞き返す。
「あぁ。……そして、親友もいたな?」
「やめてよ!!」
真木は今までにない程の声で怒鳴るも俺はやめない。
「川瀬夏見」
俺は真木の根底にあるであろう人物の名前をあげると真木は体をガタガタと震わせる。
「ちょっと……あんた!!やめなさいよ!」
その様子をみた青沢は真木を優しく抱きしめて俺を制止する。
「その時になにかあったのは明白だ。ただ、当時の同じクラスだった連中に聞いたが表だってなにかはおきてない。裏でお前達3人の間で問題がおきていたって感じだよな?」
俺は冷徹にたんたんと話を述べる。青沢が睨んでいるが気にしない。気にしたら負けだ。
「あんた…いいかげ」
「だったら…何?」
青沢がキレて怒鳴り声をあげようとしたところで真木は震えながら言葉をかぶせる。
「あなたには関係ない事よ」
「…………」
「……思い出したくないの」
真木は弱々しく呟いた。たしかに嫌な記憶程心の片隅においやり蓋をしようとする。思い出さない事で自分を守っているんだろう。
「…宮場!!これ以上は本当にやめて!」
「青沢!同情するのも庇うのも立派なことだよ。ただ、一時の感情で判断を間違えれば取り返しがつかないぞ。真木はお前と一緒だ。今が分岐点なんだ」
良くも悪くもここで手を伸ばさなければ前には進まないだろ。
「……………」
「安心しろ。俺が知ってる情報はここまでだ。後は何があったかは知らない」
俺はため息をついた後、深呼吸をする。
「話したくないなら無理には聞かないよ。ただ、俺と青沢はお前の味方でありたいと思っている。…それだけは信じてほしい」
「……宮場」
青沢も力強く頷く。
「……どちらにしても後藤はなんらかのアクションを起こすだろうから気を付けろ」
俺は真木に伝えると屋上から立ち去った。
俺が立ち去った後、真木と青沢は屋上に設置されている椅子に腰掛け無言でいるも青沢が思い出したかのように話す。
「あいつさ!ムカつくでしょ」
あいつとはまさしく宮場のことであろう。嫌だ嫌だ。陰口反対だぜ。
「……うん」
「なんか偉そうだし。なんか私達の事見透かしてるみたいでムカつく」
「……たしかに」
真木は少しだけ表情が緩む。
「……でもさ!!私は少し感謝してる」
青沢は穏やかな表情と言葉で真木に話しかける。
「「まぁ、私はさ。真木も知ってると思うけど、親の会社がダメになってからは皆からいじめられてた」
「……知ってる」
「だよね!今思えばそれは私が原因でもあるから仕方ないし当然の報いみたいなもん」
「………」
「でもさ、やっぱりムカつくし、絶対に見返してやるっておもってたんだ」
青沢は複雑な表情で言う。
「会社だっていつか以前のように大手企業になって私自身も返り咲いてやるってさ」
「……」
「でも現実は甘くなくて、それでも私はそれしかすがるものはなかったから、親に甘えて私自身は変わろうともしなかった」
真木は不思議と引き込まれていった。そして問いかけた。
「青沢さんは……なんで変わろうとおもったの?」
青沢は数秒口ごもり、照れくさそうに頭を意味もなくかき答える
「あいつに出会ったからかな」
「宮場くんだよね?」
「うん。プライドは壊されるし、今いる現実を直視させられるしで、正直心が折れた。でも……」
青沢は真木を見据えしっかりと力強く言う。
「こんな私に味方になるっていってくれた。私にも変われる可能性を作ってくれた。だから…私は今度は自分の力で変わりたいと思ったし、絶対に変わってみせる」
「…………」
「だから、私は生徒会長になるよ」
「…青沢さん」
「まだ、なんにもできてないけどね。それに初めて友達になりたい人もいる。その友達が困ってんなら私は助けたいと本気で思ってる」
青沢は椅子から立ち上がり大きな声で叫んだ
「真木桐花~~!!私と友達になってください!!」
青沢の心からの叫び。そして本気の願い。
「……うん」
真木は瞳から涙を流し小さく頷き答える。いつぶりに涙を流したのだろう。本当は辛くて、寂しくて、今にも潰れそうだった。でもあの日以来から人は信じれなくなった。でも本当は……誰かに助けてほしかった。
「真木!なにがあろうとあんたを信じる。」
「うん!ありがとう」
そして真木は瞳を閉じてあの日出来事を思い返し話す覚悟を決めた。ただタイミングが悪く下校のチャイムがなる。二人は互いに顔を見合わせて笑う。
「空気よめよなー」
「たしかに!……青沢!今日はありがとう。明日話を聞いてくれる?」
「あたりまえじゃん」
「ふふ」
二人は笑顔で出口に歩きだしその間携帯でラインを交換し、自宅に向かっていった。




