57話 突然だが魔族の仇敵である上位竜種による必滅の超超遠距離ブレス攻撃を防がせてもらってもよいだろうか(2)
空に満ちる無音。
「間に合った」
それは唐突な飛来。
空を刳り割く烈音、先頭の巨盾に彼方より飛来した漆黒の極太レーザーが突き刺さった。
――同瞬、
盾に組み込まれていた、魔術を【魔素】へと還元する【魔術分解樹】が反応。
防壁は凄まじいエネルギーの過負荷に悲鳴を上げ、
空中に、真紅の【魔素】を撒き散らす巨大な円柱魔法陣を浮かび上がらせる。
「ビンゴだがっ!」
だが極太レーザーの進攻は止まらない。
威力を減じながらも次々と【魔術分解樹】の盾を貫通、
次の巨盾でもエネルギーを【魔素】に戻され、オーバーロードによって鈍重な【魔素樹形図】を空中、仕掛け花火のように描きながらも、俺のいる、この宮殿部へと迫り来る。
「なんなのフォースタスぅぅ!!!」
「フェスティバルぞ!?」
来るんじゃないリーゼル、クラーラ! なんでこっちに来た!? という叫びも上げられない。
「フォースタス、いったい、これは……」
「なにが起こってるんですの……?」
魔王達も俺の後方で動揺している。
巨城が震えていた。
防衛用の【魔術分解樹】の過負荷に軋みをあげながら、
可視化された三次元魔法陣を巡る【魔素】の波動に、『特都』そのものが共振、共鳴しているのだ。
《# 解析完了しました! これは【消滅ブレス】です!!
火水風土の魔術すべてを強引に融合することにより、それらがリジェクトと増幅を喰い合うように繰り返し、 あらゆる物体を崩壊させる魔術……!! 竜です……! これは竜の、吐息です!!》
「つまり、ドラゴンが吐き出した極大メド◯ーアってことか……!! ん? これっ」
4枚目、最後の土属性【魔術分解樹】が、突破され……!?
「まに……あえェッ!!」
直ッ!
4枚目の盾を貫いてきた白金のほとばしりに、
俺は我が身に篭もる魔力全開、テラスを砕き蹴って殴りかかる。
「ッ!!」
くぅあごぉぉおおん!! みたいな雷鳴っぽい大音響――そう、まさに落雷的なエフェクトが咲き乱れ、
俺は衝撃に身を任せて後方のテラスに突き刺さるように着地。
「……やっぱり、な……。ふぅぅ……なんとか防げたか」
つぶやきながら俺は視線を、消滅ブレスが飛来した彼方に向けたまま、役目を果たして消し飛んでしまった盾。
……その周囲の空間を染め上げる、きらめく塵。
あまりの高負荷にあてもなく物質化し、すぐさま空気に溶け消えていく【魔素】の残滓を眺める。
ていうか、俺の身体をビリビリいわせてるこれ、もしかして、雷撃入ってた……?
ふむ!
「フォースタス……無事か? いったいなにが起こったんだ?」
『魔眼のアランドラ』に無事を知らせるよう、俺は小さくうなずき、
「ああ……なんか、竜が吐いたっぽい、消滅ブレスってやつらしいんだ、今の」
「え、まって? 待って待って待って? っていうことは、竜の……上位竜種の、ブレスを……?」
「キミはたった今、防いで……みせたっていうのか……!? フォースタス……!!」
「く、空前……絶後ぞ……?」
「まさかさっそく、この『特都』の防衛装置が役に立つとは思わなかったが……、
まだまだ改良の余地あるなこれ。ドラゴン族の魔術には雷属性……あるとか……。
っていうか、この【魔素】濃度、もったいなすぎる……」
これ、どうにか【封果】にまで還元し直せないものか。
「フォースタス……あ、あなたって……やっぱり……」
「それよりフォースタス様! 急いで住民の避難指示をお願いいたしますわぁっ!」
「あ、うん、頼むハリビュール。よく気がついてくれた。彼女の言うとおり、まだ終わってない。
じゃあハリビュール、避難シェルターまでのルートは、石畳に刻んであるから住民を誘導してやってくれ。
人員は自由に使え。おまえの指示なら、みんなも従うだろ」
了解の返事もなく、ハリビュールの姿が掻き消える。
彼女の高速移動スキル【超速移動】が残した【スキル構成樹】の
残像だけが、そこに残った。
神官はつねに住民に寄り添う。さっそくの実践。さすがハリビュールだな。
「秘書モッチーは、ここにいる街の代表者達を安全なところまで。なるべく早く」
「はい! みなさんこちらです……!! 落ち着いて、すみやかに退避をおねがいします……!」
代表団達も素直に移動を開始してくれる。ホール内の彼らがぞろぞろと回廊へと引き返せば、
「フォースタス!! 上位竜種は我が追い払う!」
「え? 待ってメイ・ファー」
腰の剣に手をかける最終防衛騎士少女の肩を、俺はそっと、引き止める。
「あれは、俺のだから」
はるか高みにある、この『新十二斂魔王宮』、そのテラス。
その上空に巨大な、金色の竜が姿を表し、『特都』に影を落としていた。
勇者救出まで、あと 1時間 6分 28秒




