56話 突然だが魔族の仇敵である上位竜種による必滅の超超遠距離ブレス攻撃を防がせてもらってもよいだろうか(1)
「フォースタス……あなたは来ないの?」
「いかないよ? だって俺、おもちゃ作るし。いやあ、助かったよリーゼル」
4人の魔王が、ゆっくりとリーゼルを見た。
「ひぃっ!? ……ちょ……ちょっと、まってよ、あんたも来なさいよフォースタス!! 冗談でしょぅ!?」
「え? なんで? そこは助け合うってさっき約束したじゃんか。感動した!
なので俺は今から、ありがたくおもちゃ作りなんだが……」
「だめよフォースタスゥゥゥッ! それは後にしてお願いだからっ!
あ、あなたがおもちゃを作ってくれるのは、その、す、すっごく嬉しいんだけど、今はお願いっ!
おねがいだから、私たちと一緒に来てぇぇ……ッ!?
……や、やだ……うそ……っ! なんであんたよくわかってない顔なの!? ばか! ばか!
フォースタスは私たちを精神的に少しずつ殺す気なの!? ちょっと、こっち来なさいよ……っ」
「うお、なんだなんだ」
リーゼルは俺の腕をつかむと、ぐいぐいと太い柱の影に俺を引っ張り込み、
「ちがう、ちがうのよフォースタス。もう状況はさっきまでとはぜんぜん変わってるのよわかってるんでしょ!?
私とリーゼルが『特都』を案内するのは、リオンペィガ達、街の代表団だけって話なのよ?
なのに勘弁してよバカじゃないの!? あのメイ・ファーだけでも……見て!?
私、ほら! 背中も首もガッチガチのばっきばきなのに、触って!! ほら! ひどいでしょ!?
そこにあのアランドラと、ハリビュールと、ユユグロまで来るっていうのよ!?
もうばっかじゃないの!? 死ぬわよ普通!!
あんな致死量変態魔王が4人も揃ってる隣をフォースタス抜きで歩いたら私、裂けちゃうわよ縦に!
ぱりーって!!
街の群衆だってあれを目撃したら卒倒しちゃうだろうし、見て! あのターバンも汗ダラッダラじゃない!」
「カレーかな?」
「なにわけわかんないこと言ってんのよぉぉっ! いいから街の要所要所の説明は私とリーゼルに任せて、
あんたはそれについては黙って私達に付き添って、あの魔王たちの対応してよぉおっ!!」
「懇願のわりには注文が細かいし、行くんだったら俺も施設の説明したい」
「『暁月の双子』の言うとおりだ。なおかつ本人も望むのなら、フォースタスも来るべきだろう」
場を制するように今や一介の騎士魔族少女、メイ・ファーが鎧を鳴らし、進み出て、
「大人数で行動してもしかたない。我が主君、フォースタスが作りしこの巨城の防衛視察は、
我とフォースタスで充分。他の者、魔王たちは別室にでも待機してもらっておけばよいではないか」
「メイ様ぁ? わたくし、わかっていましてよ……?
そう言って、そっとフォースタス様と夜の町へ消えていくつもりですのね……」
「フォースタスの護衛は、ぼく……ぼくの……」
「参謀たるもの、この巨城の主でもあるフォースタスから直に各種施設の説明を聞くのは当然だと思わないかい?」
「そんなものは別の機会にすればいいだろうアランドラ。今は町の代表者達と我が主君の信頼醸成が目的。
貴族意識が抜けきらぬなら屋敷に帰って饐えたワインでも啜っているんだな」
「やれやれメイ・ファー。キミこそ毎日姿見に映っている己の姿をきちんと見れているのか?
今フォースタスの隣に並びたいなら、そのキラキラした鎧を脱いで町娘の服に身を包むべきだろう。
特権意識が抜けてないのはキミだ、メイ・ファー」
「ああんもうだめぇ……っ! 私、気絶していいわよねフォースタス! おやすみなさい!」
「ん……? ちょっとまてクラーラ」
俺は、呼吸を一旦止め、感覚を広げる。
「なに!? 失神も許されないっていうの!? あんたほんっとにドSね!? いいかげん私、目覚めそうよ!?」
「クラーラの覚醒ぞ」
「お前たちは、ここにいろ」
「はっ? え、いや、なに? 拗ねたの? 私が言ってるのはそうじゃなくて――」
「なんか来る……」
「ちょっと、ど、どこ行くのフォースタスっ!」
そのままホールから外へ繋がる広いテラスの一番端、
俺は空との境界でもある腰壁まで一気に走って、青空の果てを見遣る。
「モッチー」
《# わかりません! 【強化索敵】は最大警戒を訴えていますが、解析が間に合わ――》
「これ、たぶん俺、フルパワー出さないとやばい」
《#は、はいっ!?》
たぶん俺は「ずわっ!」とか「でへやぁあッ!」みたいなことを叫んだんだと思う。
――新生『特都』。高台の上に建造された第一階層である『防衛要塞』。
さらに上空に持ち上げられた第二回層『城下町』。
その中央『十二斂魔王宮』。
バルコニー側面を覆っているのは、盾。
新設された、巨大な盾。
俺の両足から床を這うようにして純粋な【魔素樹形図】が走る。
あたかも『特都』に張り巡らされた毛細血管。
あるいは木の根のような魔素の経絡が『盾』と絡みあうように接続。
俺の意思が【魔素】となって奔った。
思い描く通り。
バルコニーから次々と腰壁――に見えていた防御外壁上部=盾の上辺が剥がれ、
巨大な盾そのものに【玩具創造】のデミスキル、【融合】によって
組み込まれた特濃の【封果】、風属性上級魔術《飛翔》が発動、
空中に並んだ。
縦9メートル、横5メートルの鈍い銀色。
2階建ての一軒家をすっぽり隠すほどの壁状の大盾は、
誠に遺憾、意匠一つも込めることができなかった無骨な姿を晒したまま、
連凧のごとく、並べられたドミノのように縦一列、俺の視線の方角へ、一直線に。
その数、4。
空に満ちる無音。
「間に合った」
それは唐突な飛来。
空を刳り割く烈音、先頭の巨盾に彼方より飛来した漆黒の極太レーザーが突き刺さった。
勇者救出まで、あと 1時間 8分 00秒




