53話 続いてファー家の魔王は筆頭騎士にしなくてもよいだろうか
……しかし、アランドラのおかげで俺が相手をしなきゃならない勇者像が固まってきた。
でもなぁー、正直言って、なんか、
超めんどくさそうなんだが!!
なんかこういうの、俺、ちょっと苦手な感じ……っ!!
《# まだバトル思考の魔族のほうがわかりやすいですね》
俺もそう思うよモッチー。
あくまでも勘なんだけど、これ、話し合いとか、無理……くさくない?
《# 確かに、話しが通じる状態じゃないかもしれません……。思惑が国家規模の策動となる場合は、特に。
定着して常識化してしまった『領土拡大思想』が夢だったのだと、我に返って醒めるなにかが必要です》
これ、一発ガツンと勇者と一騎打ちで、問題収まる……?
ともかく、その『勇者王子』とやらに直接会ってみないことには、今はまだなんとも言えないよなぁ……
まあ、とりあえずは、あきらめずに話し合い前提ってことにしておこう!!
話せばわかる……!
人族同士だしな!!
わかんなかったら、そん時だ。
「勇者に関してはフォースタス、後はキミの指示に従おう。見張りは今もつけてある。
一騎打ちのために、勇者王子をここまでさらって来るプランなら、すでに3つほど用意しているけどね」
「んー、勇者にはきちんと直接会って交渉してからここに招待したいんだ。見張りはそのまま待機。
とりあえず、対等な立場でここまで来てもらおうと思っている。そのための、この城だからね。
どうしてもダメなときは、他のプランに頼るかもしれない」
アランドラはポンと手を打ち、
「そうそう、この『巨城』が決め手だったんだよ、フォースタス。
キミが人族である前に。フィスト家魔王である前に。十二斂魔王である前に――」
アランドラが俺にウインク。
ウインクですぞ?
「――フォースタス。ボクはキミの持つ可能性に、やられたんだ」
きゅぅぅうんっ!
なにこれやばああああーい!!
「そしておそらく、同じように思ったのはボクだけじゃないらしいね」
アランドラが、3分の1くらいワインの残ったグラスを傾ける。
「他の魔王も、考えることは、きっと僕と一緒だよ」
「あー……」
なんだろうか、これ、
アランドラは、俺に役目を譲ったんだろうか。
「おい、そこで、なにやってるんだ……?」
しかたなく、俺は外に向かったバルコニーの端にある太い柱に向かって尋ねる。
「メイ・ファー」
「……ぐッ!!」
カンッ! と甲冑のかかとを鳴らして横向きで姿を表したのは、
俺が欲しくてしょうがない鉱石、シャンバライト・クリスタル製の甲冑に身を包んだ騎士魔王。
なんだろう、メイ・ファーは本当は忍者なのかな?
俺は【強化索敵】のスキルにより、
そしてアランドラは、おそらくは、魔眼によるスキル、【未来視】という名の【精密魔力感知】で、
メイ・ファーの接近と潜伏には気づいていたのだが……。
相手が相手だけに、そんな所にいたら声かけづらいだろ。
出てこなかったら、完全にスルーするつもりだったんだが、アランドラめ……。
「ふっ、よく気がついたなフォースタス。さすが、この我を退け『十二斂魔王』になった男……といったところか」
「いや……メイ・ファーだって、おまえんち代表のちゃんとした魔王だろ。ちゃんとしろ」
すると、白騎士魔王は事も無げに
「いや、もう私はファー家の魔王ではない。その地位は妹のミカに譲った。
今や我は、新たな主と忠誠を求める一介の自由騎士」
「……は?」
なにごと?
俺はとっさに、メイ・ファーの全ステータスを確認する。
■ ■ ■ ■
名前: メイ・ファー
俗称: 金輪のメイ・ファー
重翼のメイ・ファー
種族: 魔族
クラス: 自由騎士 new!
【魔族十二家支配】:非適用 new!
スキル:【重力強大化】【溶爆輝光】
【剣技:長剣】【光属性付与】【手紙交換】
デミスキル:【光属性長剣術】【達筆】
〔戦〕 25000
〔謀〕 15000
〔非〕 47
■■■■■
現在のメイ・ファーの思惑
(メイの
ドット表情) <
く……ッ、やはりコイツの前に立つと、身体が……変だ!! 胸のあたりが、騒々しい……!
なにか特殊な魔術や呪いを、こやつが、魔術狂フォースタスが我にかけているに違いないのだ。
このような呪いは初めてだ……。
これを解明せぬうちは、ファー家の魔王など、務まらぬ。
しかたない……フォースタスの懐に潜り込み、必ずやこの重苦しくも漲るような胸の理由を突き止めてみせる!
状態:初恋
■■■■■
■ ■ ■ ■
不整脈かな?
……っじゃねえよ!
なにこの鈍感系主人公殺しスキル!
なんだよ状態:初恋って!
ハッキリ書いちゃったよ!!
こんなの……今まであった??
《# 初恋ですってきゃぁぁああ!! メイ・ファーさん、富士雄に、始めての恋、しちゃってます!
あああああもぉぉおおすごいですぅうっ! あのメイ・ファーさんがっ! わかりますか!?
『銀麗の騎士魔王』『1000年に一度の美少女魔王』とも呼ばれたメイ・ファーさんが、富士雄にぃっ!》
そういうものなの!?
というか14年の間、モッチーすごいミーハーな魔族っ娘になってない……?
《# だって富士雄、私、せっかくだから富士雄の役に立つために、ありとあらゆる魔族情報をこの14年間
集めまくったんですよ……?
だからもう、富士雄の今のすごさが、本当に……理解、できてもうっ! だからメイ・ファーさんが
恋しちゃうのも無理もありません。女の子だったら、大抵の子はそうなっちゃいます》
そ、それは、モッチー……だからでしょ?////////
《# と、と、とにかくっ//////、この際、ポンポン拍子にメイ・ファーさんを
正妻に加えてくださいっ》
え、まじで……?
《# はいっ! じゃ……じゃないと私、今夜は、富士雄の所に……い、いきませんからっ!》
まッて!
なんでそうなる!?
《# 私だって今夜は富士雄と一緒にいたいです。それに、メイ・ファーさんは、
ファー家の魔王の座を辞してまでここに居るんですよ? 据え膳食わぬわってやつですのでっ!》
そんなのやだぁっ!
だってなんかメイ・ファー怖いもんッ!
あと秘書モッチーはすごい奥手なのに、ねんど◯いどモッチーはなんでこんなに肉食系なの??
《# とにかくここは富士雄は私の指示に従ってくださいっ!》
い……痛くしない?
《# だいじょうぶです!》
……わ、わかった。
じゃあ、メイ・ファーには、なんて……言えばいい?
《# とにかくメイ・ファーさんの話をきいてあげてください。
それから、なにか申し出をされたら、素直に受け入れてください。それがまず第一歩ですっ!》
了解した……ッ!
とにかく受け入れる!
――場は、魔王の座を捨て、一介の騎士になったというメイ・ファーの言葉に固まったままだった。
十二斂魔王最有力候補、
現最強の魔王と目されていた美少女騎士魔王が、一夜にして魔王という頂から降りたという宣言は、
それだけの衝撃をもたらしていたようだ。
俺はその緊張のバランスをくずす。
「で、なにか用か? メイ・ファー」
美しい女騎士は、ゴクリと唾を飲み込み、髪をかき上げ、俺に手を差し出す。
「フォースタス、お前が望むなら、このメイ・ファー、おまえにつかえてやってもよい」
「いや、そういうの、いいやー」
☆申し出、ナチュラル拒否――!☆
勇者救出まで、あと 1時間 31分 09秒




