52話 新参謀より、最新の勇者情報を手に入れてもよいだろうか
「でも待ちたまえ! たったこれだけでボクを信じるだって!?
キミはどうかしているぞフォースタス!」
「おまえがそれを言っちゃだめだろ!」
俺は本当に、アランドラを信用していた。
なぜならこの時、すでに俺の中での『答え合わせ』は、終わっていたから。
俺が十二斂魔王となったときに手に入れた新スキル、
【思惑看破】が、アランドラを信用すべしと告げているのだ。
一応、すでにリオンペィガにも使わせてもらったし、フィスト家にまんがいちのことがあっては困るので、
使わせてもらっているわけだが、
実際に、俺の【情報化視界】の中には、
アランドラのステータスの一番下に、新たな追加情報が加えられている。
こんな具合だ。
■■■■■
現在のアランドラ・トアロの思惑
(アランドラの
ドット表情) <ああ、フォースタス・フィストこそ、このボクの孤独を埋める真の友、
魔術の秘奥の理解者になりうる逸材に違いない……!
そのためにぜひとも参謀としてのボクの有能性を認めさせてみせる。
■■■■■
というわけでアランドラ、マジでいいやつなんだよ。
わかる。
なにかを極めようとする旅には、必ず同行者が必要なこと。
俺にとっての『おもちゃを作ること』が、アランドラにとっては『魔術を極めること』なんだ。
今の俺にはモッチーがいる。
でも、アランドラには今までいなかったんだ。一緒に旅をしてくれる人が。
つまり、アランドラは同士だ……!
俺は同士が困っているなら、力になってやりたい。
それだけじゃない。
もちろん、俺にだって打算的なものがある。
双子が気を使って町の代表者たちに説明を買って出てくれたように、今の俺には人材が必要だった。
魔術の達人であるアランドラになら、双子と一緒に魔術の相談もできるだろうし、
そうなったら、魔術ギミック入りの玩具の発展にとって、どれだけすばらしい成果が約束されるだろう……!!
すごく、ありがたい……!
《# クラーラちゃんとリーゼルちゃんが前言っていたように、他の魔族も融合魔術に興味が……
つまりアランドラさんも、富士雄の融合魔術に興味があるんでしょうか》
モッチーの言うとおり、それが本当なら、なおのこと、
アランドラの思惑には説得力が生まれている。
向こうだって、少しはそういう打算的なものはあるだろうしな。
そんな感じで、いろいろ踏まえて俺はアランドラの【思惑看破】を
信じることにしたのだ。
というわけで、俺は最初から「参謀にして欲しい」というアランドラの言葉を、
まるっと信用し、なおかつ願ってもないことなので、ぜひやってもらいたいのだが、
「こう言ってはなんだが、フォースタス。ボクは少し心配になってきた。
ボクはキミのような短絡的な魔王の参謀になってもよいのだろうか……」
「だってアランドラ、おまえウソついてないだろ?」
「それは、そうだが……っ」
「ああ、俺はともかく、フィスト家のみんなが反対するかもしれないってことか?」
と、俺が振り返ってみると、
「(バカじゃないフォースタス! あの魔術お化けが下手にでてるのよ早く受けないさよーっ!)」
「(相手の気が変わる前に速攻ぞ!)」
「(すうげえぞ!? あのトアロ家の魔王が、フィスト家の参謀になるってよぉ!!)」
「(バンベルグ、アランドラはあくまで十二斂魔王であるフォースタス様の参謀。
……しかし、それでも驚愕せずにはおれない……!!)」
……なんか、大丈夫そうだな、こっちは。
アランドラは銀色の前髪をなでつけるようにかきあげ、
「キミはことごとくボクの予想の斜め上をいくよ。ふぅ……」
首を振って爽やかな笑顔を浮かべた。
「……では、これからよろしく、フォースタス閣下」
「閣下はいらない。よろしく、アランドラ」
ぎゅっと握手。
「では、アランドラ。さっそく『勇者』の情報とやらを聞きたいんだが、すまんな、
実はこれから、代表団と城下町を視察しながら、いろいろ俺がこれからの野望を説明しなきゃなんで、
それまでおまえにはどっかで時間つぶしてもらって――」
ちらっと代表団を確認すると、みんな、すごい勢いでチガウチガウ! と手と首を振り、
クラーラとリーゼルは一生懸命自分たちを指差している……?
あ、そうだった。俺は説明を双子に任すんだっけ?
「あー、でも、やっぱせっかく来てもらったんだから俺が説明したいなぁぁ」
「いいから私とリーゼルに任せなさいよぉおおぉぉ……っ!!」
「えーでもー」
「では師匠、いったんアランドラ参謀の話を聞いてからぞ」
「そう?」
「それがいいフォースタス。ここにいる皆にもボクの情報を共有してもらおう。
ここに集まった者たちは町を代表する者達だ。敵についての情報を得る権利がある」
「『敵を知れば』ってやつか。よし、頼むよアランドラ」
「では我がトアロ家の情報収集部門が、集めた『勇者』情報を説明しよう」
というわけで、みんなで聞いたアランドラの情報をまとめると、次のようになります!
――この十二家の魔族が治める『魔大陸』の隣には、
人族の治める大陸がある。
2つの三日月の背を合わせたような鋭いX字型の大地。
人族が住むそこを称して『傷大陸』と魔族は呼んでいる。
その中心部付近に、とある国家があった。
国の名はガリュウリエ。
そこに150年ほど前、パールヘイズという王朝が興り、三代続いて傑出した王が輩出され、
周辺の国をどんどん併呑して支配領域を増やし、やがて大きな帝国となった。
で、あんまりにもパールヘイズ王朝は強かったので、ついに人族に平和が訪れたんだけど、
平和すぎて、戦が減って、人が死なないので、ほら、王って後宮とかもあるから、子どもをたくさんつくるじゃん。
そんなんだから、
貴族の血を引く者もどんどん増えすぎて、だんだん貴族の数と、彼らが分けあって治める領地が
足りなくなってきた。
困ったな―困ったなぁー。
あ、あれぇ……? あれれー?
でも、おかしいよー?
見てみて? あそこ。となりに、すげえ広い大陸があるよー?
あとは、わかるね?
そこを開拓すれば、まだまだ領地が増やせる不思議。
帝国を代表する貴族、学者、宗教者、哲学者、商人、エトセトラエトセトラ達が、
奇しくも同時期、
無意識に、
時に意識的に口の端に上げ始めた『領土拡大思想』。
つまりは戦争をおっぱじめようというのである。
そんな意見は平和な時代、生まれたとしても、当然のように社会の中で消えてしまう。
だが消えては生まれ、生まれては形を変えて共同体に流布される思想は、
やがて『そんな考え方もある』、という一つの常識として浸透する。
返しては打ち寄せるたびに、その思想は批判と賛同の錬磨による説得力と理論化を獲得し、
ついには国の中だけでなんとかやっていこうよという保守派もいつしか納得してしまう理屈の登場。
つまりは、「非文明的な生活を続ける暴力的な魔族は我々しか救えないのだこれは良いこと正義なのだ論」すら
内包した『領土拡大思想』となり、
ついにはもう一つの成熟タイミングと、重なった。
パールヘイズ王朝の跡目争いである。
長く続きすぎた飽くなき平和の中、主流、傍流を含めて、
名をあげようとしても機会すら与えられず、くすぶり続けていた様々な野心が焦点を結び、
ついに発火温度に達した。
現パールヘイズ王朝の国王、その長兄である『カリエント・GG・パールヘイズ』は、
魔族と、魔王を駆逐する『勇者』となって、すでにこの魔大陸、
◆の形をした魔大陸の西側半分、『十二斂魔王』が治める、この聖域領土に侵攻しているらしい。
人族の住む傷大陸との緩衝地帯としても機能するこの地域を抜け、
十二家領土に手をかけ始めるのは、もはや時間の問題。
一番手柄を立てたものが、より多くの『魔大陸』の土地と、名誉と、未来と、
そして王を継ぐことができる。
『魔大陸』には貴族の手勢として雇われた冒険者が、いくつものギルドを構成して乗り込んで来ている。
つまりは人族帝国の領土拡大レース。
直接新たな領土を狙ってくるもの。
勇者に貢献して、そのおこぼれを狙うもの。
誰が勇者を担げるか。
魔王を倒すことが前提の、冒険者――勇者ご一行の狂騒曲。
……それが『魔大陸』が直面している事態である。
らしい!!
長い!
「この情報は、主である僕が『十二斂魔王』になることが前提で、部下たちが収集した情報だったんだけどね」
イケメンが言うと、こういうのも全然皮肉に聞こえないのな!
俺は思わず笑い、
「つまり……『勇者』が魔族と魔王を倒そうとしてる理由は、別に人界が魔族に侵略されてるとかじゃなくて、
領土拡張を目論む大国の野望を正当化するためってことか?」
「そのとおりなんだフォースタス! 確かにそういう一面が強い。
彼らの中ではいつの間にか魔族は秩序をもたない、救いのない蛮族ってことになってるらしいね」
美青年魔王も歯を見せて笑った。
「……嬉しいよ、フォースタス。理解が早い。やはりキミはボクの友人にふさわしい」
指を鳴らして軽くガッツポーズの美青年魔王。
「っと、失礼、フォースタス閣下。つい、はしゃいでしまった」
うわぁぁ……。
なにこの流れるようなイケメンだけに許されコンボは。
……しかし、アランドラのおかげで俺が相手をしなきゃならない勇者像が固まってきた。
でもなぁー、正直言って、なんか、
超めんどくさそうなんだが!!
人族に渦巻く陰謀の臭いに、フォースタスどうする!
一方、長い話に眠ってしまった双子に迫る危機とは……!?
勇者救出まで、あと 1時間 39分 3秒




