46話 フィスト家の新たなる力の理由、その可能性を示してもよいだろうか
「はやく、私とクラーラに、あれ……見せてほしいんだけど……」
「約束ぞ?」
「ん? あれってなんだ?」
なんだなんだ、双子が急に、色っぽいぞ?
まあ、まだまだ子どもだがな。
双子よ、常に今を大事にしろよ? あっというまだぞ?
「そうね、言ってみれば……フォースタスしか持ってない【魔素契約樹】かしら」
「あー、なるほど……って、 い、今、ここでか!?」
「三人しかいないここだから、じゃない」
「……よし、二人がその気なら、俺の【魔素契約樹】を見せてやろう。
でも今は、まだ見るだけだからな? 二人には、本当ならじっくり時間をかけたいんだ」
「私とリーゼルを甘く見ないで。そこいらの大人より、ずっと強いんだから」
「よーし、言ったな?」
俺は、温泉から上がり、暖かい天然石風の床に、あぐらをかく。
クラーラとリーゼルは、ペタンと俺の前に並んで座った。
「よし、じゃあいくぞ……? ん……ぐぐぐ……」
俺はゆっくり、二人に学ばせるように、屹立させ、
「…………どうだ?」
「な、何よいまさら。最初は驚いたし、感動もしたけど……一応、もう見慣れているから。……でも」
クラーラは、さらに食い入るように、それを見つめ、顔を寄せて、
「や、やっぱり、フォースタスさまのそれ、ちょっと、他のと違うのね……」
「一種、異形ぞ……」
「じゃあ、こういうのは、どうだ……? ほら……」
「け、けっこうたくましいのね……っ。でも、もう驚かないわ」
「色は黒ぞ!」
そしてついに、クラーラは指を伸ばし、
「さ、触ってみて、いい……? フォースタス、さま……」
「そっとだぞ?」
「す、すごいわ……」
そう言いながらクラーラは、
俺が作り上げた、《爆焔玉》と《氷葬》を融合させた魔術、
ドロドロのマグマの棺で対象を包み込む魔術、
《爆焔葬》を型なす【魔素契約樹】に触れた。
《# 富士雄っ! こ、ここまでのやり取り、目を閉じて聞いていたら、すごく興奮します……!》
な、なにを言い出したモッチー……ッ!?
「師匠……。これが、融合魔法の【魔素契約樹】なのね……?
あの、アランドラ・トアロを翻弄した……」
「芸術ぞ……」
そう、クラーラとリーゼル。
前にもちょっと言ったけど、二人は俺と同じように、魔術の源流である【魔素】と、
それが描く神秘の樹形図である【魔素契約樹】を知覚することができるようになったのだ。
――なぜこの双子に、今まで俺にしか見えていなかった魔術の礎たる【魔素】と、
【魔素契約樹】が見えるようになったのか……。
それを説明するためには、俺が魔王であることによる特性スキル【心魂契約】について
解説する必要がある。
覚えているだろうか。
俺がフィスト家と、『必ず十二斂魔王になる』という約束を結び、
それによってフィスト家との間に、【心魂契約】スキルが発動したことを。
その効果は、願いを叶えた者の魂を奪うというもの。
俺は魔王トーナメントを勝ち抜き、フィスト家の願い通り、『十二斂魔王』となった。
――スキルが発動したのは、あの日の夜のことだった。
ささやかだけど、込められた思いが爆発するようなフィスト家の宴会があった。
その席で、突如【心魂契約】が発動。
俺以外のフィスト家の動きが停止した。
そして俺は、スキルそのものに、モッチーの声で問われたのだ。
《# フィスト家面々の魂を奪いますか?》と。
『ノーノー!! ノー! 奪わない!!』
《# 魂を奪わず、返却するには代償が必要となります》
『いいから! 構わないから早くみんなの魂を元に戻してあげてーッ!! はよぉお!』
そして、俺のステータス。
具体的には俺の〔戦〕〔謀〕〔非〕の3割ほどが、フィスト家の魂と共に、みんなの元に還り――
「うおおおおおッ! な、なんだ!? ち、力が、溢れて……ッ!!」
「うぅぅうがあぁあああッ! フォースタスの兄貴ィィ! こ、これは、兄貴のっ!?」
フィスト家、パワーアップした。
それぞれの基本的なステータスが数字的には30%ほど伸びた上に、
俺が備えていたスキルやデミスキルに由来する力が付与されていく。
たとえば、
イケメン将軍フィリップには、なんとアランドラの【未来視】が。
たとえば、
脳筋将軍バンベルグには、驚く無かれ、メイ・ファーの【重力強大化】が、という具合に。
あと、なんかフィスト家全体に【精密魔力感知】。
これが地味にでかいと思う。
もちろん、あの魔王たちほど威力があるスキルではなく、まだまだ弱い【未来視】レベル1
【重力強大化】レベル1みたいなやつなのだが、魔王ではない、「いち魔族」としては、
破格の可能性を、フィスト一族は手に入れていたのだ。
その他の面々にも、同じようなスキルが発動していたのが、その中でも双子は異質だった。
双子に発動した【魔素知覚】と【魔素契約樹知覚】。
これが意味するところを、俺はまだ測りかねている。
なにか、とんでもないことが、ここから起こるような気がしているのだが……
ともかく、【心魂契約】が発動し、一皮むけたフィスト家に、
俺は、改めてフィスト家に忠誠を誓われてしまったのである。
こうして、かねてからの懸案。
俺の魔王たる特性スキル、【心魂契約】については
一応、型がついたのだが、
――今、目の前の双子に話を戻せば、
クラーラとリーゼルが手に入れた、俺由来の新スキル。
その2つは魔術の礎たる【魔素】と【魔素契約樹】を見ることができるだけで、
操ることはできない。
俺のように【魔素】、そして魔術を生み出す【魔素契約樹】を自在に操るには、
さらに触れたものを自在に操る【玩具創造】のスキルが必要なのだ。
これはさすがに、俺しかもっていない。
……ん? ということは俺、魔術が使えるんじゃなくて、
【玩具創造】で、無理やり魔術を使ってるのか?
いや、じゃあそれ、魔術つかってんじゃん。
……ん? んむ?
まあいいや。
ともあれ、これまで予想だにしていなかった魔術の秘奥。
【魔素】と、【魔素契約樹】の存在を知ったクラーラとリーゼル、
魔術大学、大学院で魔術研究を生業にしていた双子は、
酒宴の席でそのまま失禁するくらい、感情を爆発させていた。
「こ、こ、これが、これが、魔術の、本当の基礎……ッ!!」
「絶句ぞ……!!」
過去回想で話をまたぐ……!
勇者救出まで、あと 28分32秒




