44話 この絶景の理由を説明させてもらってもよいだろうか
「んひゃあああぁぁんっ!?」
赤髪の少女が細い水流にのけぞった。
「どうだ……!」
突然の水鉄砲攻撃に尻もちをついたクラーラ。
その顔には、驚きと、そわそわとした瞳の輝きが宿り……ッ!
「な、なんなのそれっ! ねえ、なにそれフォースタスっ!」
「またしても謎アイテムぞ!!」
身を乗り出して食いついてくる双子!
よしっ!
「クフフフフ……、ふたりとも……その改まった態度をやめてくれたら、これで一緒に遊んでやる!
さらには、このおもちゃを一人に一個ずつ、ブレゼントだ!」
「ひ、卑怯……っ」
赤髪のクラーラは俺に指を突き付け、立ち上がる!
「いつもいつも……卑怯よ! 卑怯なフォースタスぅっ!」
「卑劣ぞ!」
それから、双子は俺に飛びつくように抱きついてくる。
「ねえ、なんなのこれっ! はやく教えてフォースタス!」
「はやくちょうだいぞ!」
「私のぶんも、もちろんありますよね、フォースタス殿」
「待て待て、落ち着けふたりとも! そしてなんで双子のぶんまで抱えてるんです玉璽さま……!
3つも欲張り! ええと、いいか……? これは水鉄砲っていってな?」
「みず……でっぽぅ?」
「あ、鉄砲がねえのか、こっちには……」
まあ、俺が元いた世界にも、俺の身近にはなかったが……
「とにかく、こう使うんだ!」
俺は湯船に竹筒状の先端を入れて、ピストンを引いてお湯を吸い込む。
たっぷんっ!
「それから、こう!」
ぴしゅぅぅううっ!
「きゃーっ!」
「得も言われぬ感触ぞーっ!」
「私にも……、玉璽である私にも、ぜひ遠慮なく……!」
水鉄砲を食らったクラーラとリーゼル、そして玉璽さまは、転がりながら自分の竹筒を手に取り、湯船へダイブ!
ざぷんとお湯につかり、見よう見まねで水鉄砲に吸湯。
「よくもやったわね! フォースタス! 見てなさきゃはぁっ!」
俺に銃口を向けたクラーラに、
「油断大敵ぞ」
リーゼルの不意打ち……っ!
「もー! リーゼルっ! ひゃうっ! や、やったわね玉璽さまぁっ!」
双子と妖精の三人は、ぱちゃぱちゃ縦横無尽に水鉄砲で遊びだした。
「これがあれば、勇者もイチコロよっ!」
ぴしゅううううううっ!
「討伐ぞーっ!」
ぴゅぴゅぴゅぴゅぴゅーっ!
「いいでしょう、二人まとめてかかっておぷひゅうぅぅっ」
こらこら三人とも……っ!! お風呂場で遊んじゃいけませんよ……!!
と、言いたいところだが、
「癒される……!!」
まあ、今は細かいことはなし……!
「だめだぁクラーラッ! リーゼルッ! ァァアアアア乳首はだめ! 乳首はだめ!
玉璽さま今チャンスです! 双子の背後がら空きですぞーっ!」
《# ふ、富士雄ぉぉっ! ううううっ! わ、私も混ざりたいですぅぅうううっ!》
……ゆくゆくはこのフィスト式竹筒銃、
俺としては、中級水属性魔術の魔術水・特性変化を応用して、
吸い込んだ水に色が付くように調整、
その色をそれぞれのプレイヤー別に赤とか青とか黄色とか、
誰にどれくらい自分の色をぶっかけることが出来たかを判定出来るようにしたり、
・水条が一直線に遠くまで飛ぶ『ストレートモード』
・射程を犠牲に水弾を拡散させる『スリーウェイモード』
・防御のためのデコイを作り出す『フォッグモード』などを搭載して、
チーム戦で競技化する野望を持っていたりするのだが……!
《# ああもう、すっごいたのしみですね! 富士雄……っ!》
でもでもモッチィィッ!
なんせ今は、時間が足りない……!
勇者すぐ来ちゃうもの! そんな暇がないもの!
だが……俺の、この忸怩たる思いを、子どもの笑顔はこんなにもほぐしてくれている……。
俺は適度に水鉄砲でたわむれる双子と妖精に混じりながら、ご満悦……!
「ふぅぅ……っ、いいですよ……? 玉璽さま」
「は?」
お湯が切れ『ローディング! ローディング!』と囁いてくる水鉄砲を、なおも焦って
必死にクラーラへとピストンしていた玉璽さまが俺に振り向く。
「さっきの話しの、続き、いいんですか?」
「わ、わかりました……」
今はキグルミじゃない妖精の表情が、なんか残念そうに、いつもの玉璽さまのものに変わる。
「リーゼル! ちょっと、こっちよ! すごい眺め!」
「絶景ぞ」
見れば水鉄砲を構え、ざばざばと湯船の端で、双子が外に向かって前のめりになっていた。
こっちに向いてるおしりがかわいい。
『十二斂魔王宮』に割り当てられたフィスト家プライベート区域。
そのてっぺんにつくられたこの魔法温泉の眼下には、あまりにもファンタジーなパノラマが広がっているのだ。
「では、お聞きしたいと思います、フォースタス殿。
城下町を、このように上空にあげてしまったその理由を」
「よいですか? 玉璽さま。俺的にはですね……」
俺は立ち上がり腰に手を当て、雄大な景色を眺めながら「ふむん」と鼻を鳴らす。
「……魔族の『魔』は、【魔素】……つまりは『魔素』の『魔』と見たり……!」
玉璽さまはもちろん、双子も振り向き静かになって、湯船につかり、俺をみあげる。
「ということはですね、玉璽さま。この【魔素契約樹】こそ、
魔族の都にふさわしいモチーフだとは思いませんか?」
もう、ね。
やっぱ、俺、こういうの大好き。
めっちゃたのしかったぁぁぁぁ……ッ!!
たぶん俺、12時間くらい、ぶっ続けだった。
まさしく、レゴブロッ◯とプ◯レールとシルバニ◯ファミリーを同時プレイしているような、
そんな感じで、新しい街、夢中で作った……ッ!
俺はここぞとばかり、自分の信念を披露させてもらう。
「では、どの魔術の【魔素契約樹】を、この魔族都市のモチーフに持ってくるか。
即決でした。やはりここは、魔術の代名詞とでも言うべき、あの爆炎無双!
《爆焔玉》の【魔素契約樹】こそがふさわしいッ!」
俺は手にしていた水鉄砲を【玩具創造】の制御下に置き、
火属性上級魔術、《爆焔玉》を作り出す【魔素契約樹】を作り出す。
「いやいやいや玉璽さまの言いたいことはわかりますっ! こんなスポンジケーキみたいにどっしりとした
土台を持つこの城のフォルムが、あの流麗な《爆焔玉》の【魔素樹形図】なのかと……!!」
俺は、玉璽さまの反応や振る舞いから、全ステータスが???な彼女が【魔素】や
【魔素契約樹】に気づいてる、知っていること、わかってますよ!
なんせ玉璽さまは玉璽さまなのだ!
「ちっとも樹形図が再現できていないじゃないか……!!
玉璽さまの目も、クラーラとリーゼルの表情も、そう言ってるね……?
はいッ! それごもっともな意見ではありますが、ご心配なさらずっ!!」
俺は《爆焔玉》の【魔素契約樹】を象った
模型を、くるり!!
「実はこれ《爆焔玉》の【魔素契約樹】を、
つるっと裏返した時に現れる、名をつけるならば【魔術分解樹】とでも
言うべき【魔素樹形図】でしてっ!」
手の上で、二段重ねのホールケーキ状になった物体を手に、
「エネルギー元素ともいうべき【魔素】が、【魔素契約樹】によって魔術に変換されるなら、
その逆、魔術も【魔素】へと戻すことができると考えるのが自然ですよね!
で、そう思って試してみたらできたんですよ。
攻! 流麗な【魔素契約樹】がすべてを貫く槍に喩えられるなら
守! どっしりとした【魔術分解樹】は、まさにすべてを防ぐ盾!」
いいよ……【魔術分解樹】も、いい形してるっ!
「最初はやっぱり《爆焔玉》を作り出す【魔素契約樹】モチーフ、
樹形図=ツリーハウス式都市にしようと思っていたんですが、
どっしり大地に根付くような【魔術分解樹】には、ツリーハウスに加えて、
このどっしり部に、さらに地下室が……! いいですか? 地下室がつくれるんです!!
隠れ家ロマン! 地下室ですよ!?
はぁぁぁあああっ……! 魔族の都市に……うってつけです!」
「リーゼル……どうしよう……、私、やっと【魔素】とか【魔素契約樹】を
理解できたはずなのに、さっきからフォースタスさまの言ってることがちっとも理解できないうえに、
早口でデュフフフとかフォカヌポウとか言いだしてキモい」
「クラーラ、諦観は大事ぞ。狂乱は天才につきものぞ」
☆フォースタス、狂ってしまったのか……?☆
勇者救出まで、あと 2時間 24分 53秒




