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異世界魔王の日常に技術革新を起こしてもよいだろうか  作者: おかゆまさき
第2章 【異世界承認編】 続いて異世界“魔族”の日常に技術革新をおこしてもよいだろうか
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40話 第2章 プロローグ 姫と勇者と裏切りの暗殺者



この1話だけ、主人公の富士雄の視点ではない、三人称。


二章の最初に、プロローグ。


とある男の視点から。






―――――――――――――――



………

……



魔狼の群れに囲まれて、



「ああ……厄い……なんて厄日だ……糞チクショウ……」



貧相な木の根本に転がる長身の男も、また、貧相な風体だった。




森。

人界未踏。

濃く深い森の、深層部だ。




血が足りない。精気が足りない。


なにより足りないものは力だった。



……ギルドのメンバーたちと、……あいつらと一緒なら、殺れた。



だが、一人でもできると思った。

だからここにいた。


やるしかなかった。



――瀕死の状態で転がる男は、有能な暗殺者で、ロクデナシのヒトデナシだった。



名をフーシャルル・JB・ランプブラック。



フーシャルルは仕事として、とある『姫勇者』の元へを送られ、そして、暗殺対象である彼女に惚れた。


2年前の話だ。


惚れたのだ。



だが厄介なことに、フーシャルルは、自分の中に抱かれたその感情を理解することができなかった。



産まれ落ちて40年。

彼が最も親しみ、胸の中で動かせる情動は唯一、怒りのみだった。



だから猛烈にフーシャルルは腹を立てた。



姫勇者がムカついてしかたなかった。

ずっと、今すぐに殺してやろうと思っていた。


現に、いつでも殺ることができた。




――本気だった。




『姫勇者』ネイシア・JB・パールヘイズ。



彼女は王家の血を引く、本物の姫だった。


兄が1人と2人の姉。


4人兄妹の末っ子。




本来ならば、一番上の兄が王を継ぎ、末の三女のネイシアなどは、お飾り外交に勤しめば満点。


たとえ身分を利用して放蕩の限りを尽くしても、誰から責められることもない。

そういう身分だ。



だがネイシアには、他の兄妹が持たない力があった。



生まれながらに持っていた、強い魔力。


一人の兄と、二人の姉。




誰かがネイシアの力を恐れた。




ネイシアは幼くも聡い子どもだった。



彼女は自分が生み出すであろう跡目争い、その醜い政争を、自分で消し去ることにした。


本能的に城を出た。


身を捨て一介の冒険者になり、冒険者ギルドを作った。




冒険者ギルドに入った者は、慣例としてミドルネームにギルド名を入れる。


ギルドの名はジェイルバード。

称してJB。


合計人数が10人にも満たない、弱小ギルドだった。



他のギルドのように、金儲けや名声に走らず、ジェイルバードは弱者の味方だった。



いつのころからか、

彼女の出生を知らぬものさえ、ネイシアを『姫勇者』と呼ぶようになった。




暗殺者フーシャルルは、自分が誰の命令で、ネイシアを亡き者にするのか、意に介さない。

それを知ることは仕事の内に入っていない。




『魔法陣大陸』――通称『魔大陸』に渡り、魔族の王、魔王を倒すと彼女が言い出した時、

フーシャルルはすでにギルドの腕利きニンジャとして古株になっていた。



いつでも殺せる。



『フーシャさんはそうやっていつも落ち着いていらっしゃるので、私も見習わなきゃです』



おっとりしているクセに、すぐに一杯一杯になってしまう姫勇者。

困っている誰かを見捨てられず、後先考えず行動を起こしてしまう14歳の姫――



ネイシアの思惑とは別に、彼女が魔王を討伐してしまえば、

次代の王は彼女、ネイシア・パールヘイズになるだろう。



彼女がそれを望まなくとも、時代がネイシアを選んでしまう。



だが、

俺が殺すまでもなく、このままなら、あの姫勇者は終わるだろう。




――いったい誰が『魔導外骨格』なんてものをこの大陸に持ち込んだ!?




決まっている。

どこまでネイシアの兄姉は糞なんだ。


ネイシアも馬鹿すぎる。



一瞬ですべてが瓦解した。



このままじゃ、なにもかもが糞だ。



「ああ……チクショウ……」



そもそも、オレはなんでこんなところにいるんだ?


壊滅寸前の、あの冒険者ギルドのために、救援を請いに……?



この俺が……?



俺は、とっととトンズラさせてもらっただけだ。



あのクソ迷宮から。



だが、しくじった。

魔狼の群れは、振りきれない。



こんな魔物の糞になるために、オレは産まれてきたのか。




「まったく、厄日だ……ついて……ねぇ……」



かすれる声。



――誘われるように魔狼の群れの集団が、動かぬフーシャルルに襲いかかった。




「ッ!?」




飛びかかってきた3匹が、まとめて目の前で爆裂した。



轟音に次ぐ、轟音。



次々と排除されていく魔狼群。

飛び交っているのは魔術か。



しかし、これほどの――



紅蓮の焔と翡翠の氷塊が、あっという間に数十匹の魔狼を排除しつくす。



「(……助かった……ってのか……?)」



「フォースタス様! こっちよ!」


「瀕死ぞ」



軍服のような黒い服を来た子どもが、フーシャルルの傍らにしゃがんだ。



――可憐な少女に、ネイシアの姿が重なった。



が、少女は二人いた。

左右から自分の容体を確認しようとしていた。


赤髪と青髪の双子だ。



「うお、マジで人間じゃん!」


「フォースタス様、こいつが……勇者なの?? ずいぶん枯れてるわ」


「抜け殻ぞ」


「いや……」



正面から、もう一人の子ども――少年が、瀕死の男を覗き込む。



「そうか、おまえ、勇者の仲間か……」



黒髪の、奇妙な服を来た人間の子どもが、奇妙なことを言っている。



「……まだ意識はあるか? 聞こえてるか? おい! フーシャルル!」



「(なんで……こんな、ガキ……が……)」



もうろうとしているフーシャルルは、どうして初対面の少年が、 

自分の名を知っているのか疑問にすら思わない。



この少年の形をした魔王が、たった今【人族ステータス看破】というスキルに目覚めたことなど、

フーシャルルは知るべくもない。



――だが、

そいつが誰でも関係ない。



死に損ないのヒトデナシ、ロクデナシの貧相な男は、最後の力を振り絞った。



「お、おい……、助けて、くれ……」



チャンスだった。


もう、あの、ムカつきを通り越してイライラの局地。


やられたら、やりかえす。

やられてなくても、なお、やりつくす。


力がすべての世界で、呆れるほどお人好しの女、あの姫勇者ともおさらばだ。



「助け……」



――これで、救われる。



「助けて、やってくれ、アイツを……」



暗殺者、フーシャルル・JB・ランプブラックは少年の腕をつかんだ。



「糞兄貴の手から……ラストダンジョンに残る……勇者……ネイシア・JB・パールヘイズを……!」



少年は、首を少しだけかしげた。



「べつに構わんが?」








勇者救出まで、あと 28分32秒



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