25話 改めてフィスト家のみなさんに忠誠を誓われてもよいだろうか
「ですからどうか、この私たちを一番弟子に! お願いでございます!!」
「直訴ぞ」
さらに深々と頭を下げる双子魔術師!
「あ、いや! 待て待て待て待て!! クラーラ! リーゼル! やめろ! お、面をあげいっ!」
俺は慌てて、ベレー帽がかわいい制服少女二人の前にしゃがみ込むが、
「あのアランドラが属するトアロ家は、特に魔術に秀でた一族でもあります。
その頂点の魔王を魔力枯渇に追い込んだフォースタス様の魔力量……。
初めて見ただけで上級術を無詠唱できたことなんか、
朝飯まえだったというのが、今なら、今なら……わかります」
双子は、必死だった。
「本来ならば、あのあとすぐにこうして頭をさげるべきでした!
しかし、一晩こうしてリーゼルと話し合ってからっていうのは……
だって、だって、すぐにはどうしても、信じられなくて……!!
でも、あれは何度思い返しても、【融合魔術】に違いなくてっ!」
かすれる声。肩を震わせるクラーラの剣幕――
「本当に申し訳ございません! 私もリーゼルも、なんでもします。
フォースタス様に忠誠を誓い、ずっとお仕えします!
ですから、この私とリーゼルに、【融合魔術】を伝授してください!」
「奴隷ぞ」
「『奴隷ぞ』じゃねーよ! というか立て立て! どうしたんだよふたりとも!
なんだよ急に! 子どもがそういうことをしちゃだめだ!!」
俺は床に仰向けに寝転び、身を寄せてしゃがむ双子の顔の下に頭を突っ込み、
「な、なによっ!?」
「なにぞ!?」
「いいか!? 俺はお前らの、フィスト家の魔王かもしれねえが、ひれ伏してほしいから、やってるんじゃない!」
顔をあげる二人に合わせ、俺も床に座り直す。
「俺はおまえらに、クラーラとリーゼルに笑ってほしいから、
竹とんぼしてたときみたいに、心の底から笑顔になってもらいたいから――」
おもちゃ屋さんになりたいんだ! という言葉を、俺はかろうじて飲み込み、
「フィスト家の魔王に、『十二斂魔王』になろうとしてるんだ」
「フォースタス様!!」
「崇敬ぞ」
すると二人は、今度は頭を下げること無く、大きな瞳で俺を見てくれている。
ふぅ……わかってくれたか……
「だから、俺に対してはいつもどおり、ほら、昨日控室で始めて会ったときみたいに、やってくれ」
「で、でも……」
「不敬ぞ?」
「お前たち二人だけ、特別だ。フィスト家の一員、フィスト家の明日を担う、いわば未来だからな!」
きょとんと、クラーラとリーゼルは見つめ合い、
「……じょ、条件が、ございます」
「なんだ?」
「だったら私とクラーラを弟子にして! 弟子にしてくれたら、今までどおりに、接してあげるわっ!」
「んんんん……っ、わかった……! それなら、しかたないっ」
思わず吹き出せば、クラーラとリーゼルも笑った。
「あなたがフィスト家の魔王で本当によかったわっ!」
「僥倖ぞ」
突如、左右から俺の首に双子が両手を伸ばし、同時に奪うように抱きついてくるっ!?
「ね、フォースタス、あなた大人気よっ? みんなあんたのことが聞きたいって、
昨日から私たち大変だったんだから!」
「行列ぞ」
「だから、いーっぱい自慢しておいたのっ! ありがたく思いなさい?」
「ちょっ! おおおっ! く、苦しッ! なんだおまえら二人! やめろクラーラ! リーゼル!
俺を倒してフィスト家の魔王になる気か!!」
俺はとっさにフィリップに助けを求めるが、
「お願いでございます! 我々フィスト家をお導きください、フォースタス様!」
「言ってる場合か! おまえの親戚の双子に殺されようとしてんだぞ! 導いて欲しいなら助けて!」
それでようやく、俺から双子が引き離される。
初めてバンベルグが役にたった瞬間だった。
「けほけほ……」
魔族の子供は加減ってものをしらない。
俺は喉を整え、
「今……、クラーラとリーゼルに言った通り、俺はその、『十二斂魔王』ってなのに、
なってみるつもりだ」
フィスト家に伝えた。
じゃないと、当初の予定通りやってくる勇者と和解することができない。
昨日、モッチーと改めて確認もした。
アランドラも言っていたが、強さで競うトーナメントで決める『十二斂魔王』だ。
今や魔族は、ここにやってくる勇者とドンパチする気マンマンだろう。
となれば、魔族 vs 人族での戦争が三日後……いや、あと二日後? を境にして始まるってことで、
そうなれば子どもたちにおもちゃどころではなくなってしまう。
駄目、絶対。
「だから、とりあえず任せてくれ」
「………わかったぜ。オレが間違ってた!」
「バ、バンベルグ……!?」
おいなんで今立ち上がったこの脳筋将軍!
や、やるのか!? やんのんか!?
「なによりフォースタス、てめーは……強い」
ッ!?
「クソッ! クソッ! なんなんだありゃあ! 傑作だ!!
見たかよ! 昨日のあの、アランドラのキザ野郎ッ!! 干物みたいになっちまいやがった!!」
ガハハハハ! って笑うヤツ、俺、初めて見た……!
「認めてやるッ! おまえがフィスト家の魔王だと!」
「お、おおぅ……」
バンベルグ、いい意味でもそうじゃない意味でも、フィスト家のムードメーカーなのか?
なんだが、家臣の面々が改めて、俺に頭を下げているんだが……
《# 特性スキル【心魂契約】が発動しました》
「……はっ?」
《# 契約相手は『フィスト家』一門。 内容は『フィスト家魔王として十二斂魔王となること』》
ちょっ!! それは待って!! え? ということは俺、十二斂魔王になったら、
フィスト家みんなの魂を吸い取っちゃうの!?
《# す、吸い取りをキャンセルして、戻せばいいんじゃないでしょうか……》
それ可能なの!? モッチー!
《# た……たぶん! いえ、富士雄なら絶対できます!》
だ、だったら、かまわんが……!
「若、次の試合が始まるようで」
「え、もうなの!?」
俺は傍らに控える執事のヨーハンに、ちょっとだけ待ってのジェスチャーを示し、
モッチー! そっちはどう? 俺のスキル、整理できた!?
《# ぎりぎり間に合いました! 急いで説明します!》
「「「「フォースタス様!」」」」」
フィスト家一門が、立ち上がっていた。
「「「「「ご武運を!!」」」」」
ブクマ、評価をしていただけると、モチベーションがすごいです…!
勇者到着まで あと 49時間37分11秒




