12話 ついに魔術をこの目で拝見してしまってもよいだろうか
※初日、連続十五話まで更新予定。ご注意ください…!
「仕方ないわね。特別よ?」
「稀有ぞ」
屋外テラスの開けた場所に、クラーラが進み出た。
「魔術っていうのわね、いい? いくら覚えようとしたって、使える奴にには使えて当たり前だし、
使えない奴には使えないっていうシロモノなの。
だからまずは実際に見せてあげるわ。本物の魔術というものを」
「クラーラが先ぞ?」
「じゃあ、私が炎属性と土属性を見せるから、リーゼルは水属性と風属性を頼むわ。得意でしょ?」
「ラジャーぞ」
「じゃあ、いくわよ。よく見てなさいよ、あんた。百聞は一見にしかず、1回しかやらないから」
ん?
クラーラが両手を胸の前に持ち上げた時だった。
今から始める武道の演舞に全神経を集中するように腰をかがめた俺の視界に、
なにか邪魔なものが重なった。
モッチーではない。モッチーは画面端でごろごろしている。
見えたそれをたとえるなら、半透明な、樹木の影絵?
クラーラが広げた両手の中に、立体的な、もち◯ちの木みたいなものが出現した。
すると不意に、複雑な流線型の樹形図っぽいものが、白く縁取られ、
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
魔素契約樹
属性: 火炎魔法
等級: 初級
名称: 操火
効果: 自然の火を自在に操る
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
【大百科】が発動したのか、インフォメーションが出た。
そして、樹形図の根から吸い込まれ、太めの幹を登っていく怪しい光エネルギーらしきものに、
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
魔素
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
という表記が出ている。
……ふむ、
《# トロフィーを獲得しました♪》
お? 俺の情報化視界の右上に、メッセージが現れる。
《#『プラチナ』 魔素の解析者》
プラチナトロフィー?? 結構これ、レアなことなのか……。
《# トロフィー獲得リワードにより【魔素知覚】を獲得しました。
さらに【魔素知覚】デミスキル【魔素契約樹知覚】を解放します》
これはわかりやすくなった!
……なるほど、魔法を使うときには、まず、
魔法陣のように、空間へこの【魔素契約樹】を生み出して、
そこに【魔素】を走らせることで、魔術を発動させるしくみなのかな?
これ、知覚できるようになって、よかった。
だって、
一言、いわせてほしい。
美しい。
【魔素契約樹】
それは、俺もいつか、こういうおもちゃも作ってみたいと思わせる、
無駄のない機能美=デザイン性を持つ、
考えるまでもなく製作者の思想を感じさせる一品だった。
クラーラが生み出した【魔素契約樹】が、
彼女の影から、彼女の体内に蓄積された魔素を吸い上げ始める。
そして根から幹を登るクラーラの魔素は、予想通り、枝葉の先へと渡り、
そこまでたどり着くと、赤い果実を実らせた。
瞬間、毛を逆立てるような力の波が、俺の神経を撫でる。
「んっ??」
「ふふふっ、どうやら感じたみたいね、私の魔力。その質と量を」
クラーラが薄く笑い、
そして、その果実が熟れて、弾けると同時。
クラーラの胸の前に、
ぼわっと赤い炎、ひゅぼひゅぼと空中に現われ、
円の形を描いたり、正方形の箱形になったりしている
「……ほう、それが炎属性初級、《操火》か」
「(フォースタス様、お約束の、例のあれを)」
俺の背後から、ヨーハンの小声が届く。
おっと、そうだった!
「そ、それは、まさか、無詠唱ッ!? す……すごいじゃないかクラーラ!」
「あんたにも、それくらいはわかるのね……」
クラーラは赤い髪をファサっと掻きあげ、
「たとえそれが炎系魔術の初級、《操火》であっても、無詠唱で使うとなると、
それ相応の腕が必要」
「お、おう……っ」
彼女が器用に炎を操るたびに放たれる微細な魔力は、さっきみたいにこそ、俺の神経をざわめかせないが、
確かに魔力の流れとして感じることができた。
「ふふふ、ちなみに私は、中級の《火炎噴射》まで無詠唱でいけるわ」
「(フォースタス様)」
「えっ? あ、う、……嘘だろっ? そ、そんな話、聞いたこともないぞっ!?」
……こんな感じでいいだろうか!
ちらッ
クラーラさん、俺から目をそらして、『こんなの大したことないけどフェイス』してるけど、
全身からあふれるどや汁すごいいいいいいッ!!
「ふふふ、まあ、さすがのわたしも、上級魔法の《爆焔玉》は
無詠唱とはいかないけど、見たい?」
「ぜひ!!」
「言っておくけど、学院でもこれが仕えるの、一握りの教師だけだから」
勇者到着まで あと 68時間50分34秒




