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食べられるわけないよね?

 二度目の気絶から目覚めると、今度は血の滴る生肉に埋もれていた。どこだここは。


 (よーし大丈夫だぞ俺…気をしっかり持てよ…冷静にな…大丈夫俺はやればできる子…)


 もう一回情報の整理だ。死んだと思ったらグリフォンに生まれ変わっていた。以上。

 …頭がパンクしそうだ。しかしこれは現実。二回気を失ってなおグリフォンのままなのだから、もはやこれを現実とみなす他ない。何より、この空腹感。夢か何かでこれだけ腹が減ることは考えられない。


 取り敢えず、この生肉の海から脱出することにした。まずは腕を伸ばして頭の上の生肉をどかそうと…思ったが肩が上がらない。あれっ、と思ったが理由はすぐわかった。俺の腕…もといグリフォンの前足の可動域は俺の顔の高さから下に限るようだ。犬や猫の前足をイメージするとよくわかると思うが、四足歩行の生物の前足が、胴体を全く動かさずに頭のすぐ上のものに触れることはできない。


 (ははあ…なるほどね、じゃあ無理やり肉を登って行くしかないか)


 登れないんだなこれが。生肉が新鮮なおかげで足が血で滑るのなんの。


 (くっそおおおお! そもそもなんだよこの生肉は!? 胎内に逆戻りでもしたか!?)


 そんな生物聞いたことないが、グリフォンの生態なんぞ誰も知らないので否定しきれないのが怖い。どうにか抜け出せないかと体を捻ったり捩ったりしていたが、ふと背中に妙な感覚があるのに気づく。なんだこの感覚は。


 (…あ! これ翼だ! そうだ、グリフォンの…俺の背中には翼があるんだ!)


 試しに動かそうとしたが…なかなか動かない。こうか? それともこうか? と模索を続けることしばし。ついに翼を大きく動かすことに成功した。どうも翼というものは思っていたより力強いものらしく、翼を大きく動かすと俺の上にあった生肉は大体吹き飛んだ。吹き飛んで…向こう側で佇んでいるグリフォンと目が合った。全身が強張る俺。


 (落ち着け落ち着け、あれは味方…コワクナーイ…コワクナイヨ…)


 コワクナイ…コワクナイ…と心の中で唱えに唱え、どうにか心を落ち着かせる。そう、俺の予想が正しければ、このグリフォンは間違いなく俺の親であり、可愛がられることがあっても殺されるなんてことはない…現代日本じゃあるまいし。グリフォンの性別なんてわからないから父か母かはわからないが。もっと言えば、俺は俺自身の性別すら確認できていない。なんなら性別がない可能性すらある。


 ちょっと落ち着いてきたので、翼で周りの生肉を払いながら辺りを見渡す。すると、場所は変わらず大森林を一望できる…おそらくグリフォンの巣、だった。巣にしては相当広い。形は円形で、俺が端から端までたどり着くのには十数秒のダッシュが必要そうだ。


 ふと、目の前のグリフォンが前足に握っている物に目がいった。生肉だ。それを、何事もないかのように、口に運んで、食べた。うまそうに食べた。その瞬間、俺を生肉の底に沈めた犯人が誰か、その理由を含めて理解した。つまり、このグリフォンは、生まれたての俺に、さぞかし腹が減っているだろうということで、食事を持ってきてくれたのである。おいしい生肉を。俺が埋もれるほどの、山のような生肉を。


 (オエエエエエエエエッ…)


 想像して強烈な吐き気に襲われた。生まれてからまだ一度も食事をしていないので、当然吐く物などなかったわけだが。


 (そこは母乳とかじゃないのかよ…)


 確かに、生まれたてにしてはずいぶんしっかりした体ではある。最初から普通の食事ができる体で生まれてくるのかもしれない。しかし、問題はそこではないのだ。生肉をそのまま食すことへの抵抗感。これに尽きる。なまじ医学の知識があるぶん、感覚的にも理性的にも厳しい者があった。

 どうしても食べようという気になれず、そのまましばらく我慢していた。グリフォンは心配そうにこちらを見ているが…すまん、もう少し覚悟する時間が欲しい。


 などと考えていると。なんだか目が霞んできた。体に力が入らない気がする。頭もぼんやりしてきて…


 (…あれ? これはひょっとして…餓…死の…)


 あろうことか、俺は三度気を失った。


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