手
頭の中は常に
高いシの音がやたらに響く
私はこの音が苦手だ
苦手な物っと言ったら
まだいいのかもしれない
嫌いな物にいつかは変わってしまう事
そんな事は目に見えて明らかだった
「買ったばっかだけど、ま、いっか」
おろしたての黒いヒールを履いて
家を出た
扉は重い
家から出たくない症候群にでも
かかってしまったのかもしれない
電車にいつも通り乗って
いつも通りの場所に座って
いつも通りの日々を送って
それで本当にいいのか
自分に問いたくなっても
それでも考えた末に何にも残らないから
考えることさえもしなくなって
溜息だらけの毎日
「あっ」
特等席はもう誰かの物
仕方なく向かい側の椅子に座る
ふと視線をあげた先には
目が合った
気まずさで即またそらして
高校生だよね?
雰囲気はまだ幼かった
それからも何度か視線が重なる
なんだろう
?マークが浮かぶ私の脳内を置き去りにして
電車から降りた
足が痛いな
やっぱりまだ固いかな
ヒールを見つめた
長い話を聞いて
欠伸をした
眠いな
いつの間にか終わっていて
帰るか
長い間座っていたせいか
足がしびれていた
誰かの手が目の前に伸びていた
その手を掴んでいいのか
ためらいながら
少しの力でその手を掴もうとした
「大丈夫ですか?」
頭の上から聞こえてくる声
耳に心地よく響く
うなずき、よろめく身体
体重の半分以上を支える
大人の男の人
「すいません」
「いえ」
一回も目線は合わない
私が合わせないから
自分の身体と相手の身体が離れて
一歩後ろに下がって
お辞儀をして
鞄や荷物をそそくさと持つと
その場を去ろうとした
強い力で引き留められた
その力に対抗することなんかできるはずもなく
「あの、すいません。この後って...」
相手の言葉なんか耳に入る間もないくらい
「ちょっと急いでるんで!」
ムキになってしまった
少し声も大きくなってしまった
それでも
その手の力が弱くなることもなく
「よかったら連絡ください」
一枚の紙に急いで書いたのがわかるほどの走り書きで
11個の数字が並んでいた
「はい」
恥ずかしかった
こんな事今までなかった
気づけば耳は真っ赤だった
顔も真っ赤だった
手は震えて
口から出てくる言葉はなかった
知らなかった
こんな感情が自分にもあるんだってこと
知りたくなかった
こんな感情があること




