犬と猫
4.犬と猫
イロリが散歩をしていますと、犬と猫がやって来て、イロリに話しかけました。ねえ、イロリ、犬と猫とどっちが偉いと思う?
猫に決まっているよねえ、だって、人間はこの私のしなやかな体を抱くだけで、幸せを感じるのよ、と猫は言います。
犬に決まっているよねえ、だって、人間はこの僕が足元でじゃれつくと、にっこり笑って幸せそうだよ、と犬は言います。
それに、猫はネズミを捕って、役に立っているのよ。
犬だって、牧羊犬なんて、家畜の世話をして、役に立っているよ。
なによ、猫は犬と違って、死んでも、三味線の、皮になって役立つのよ。
犬は、猫と違って、本当に忠実なのだ、忠犬ハチ公がその代表さ。
何よ、密告者を、この卑怯な官憲の犬めって言うのよ。
何を言う、都合が悪くなると、猫なで声を出すくせに、卑怯もの。
昔は、つまらない武士のことを、犬侍と言ったのよ、それに無駄死にを犬死になんて言うでしょ。
猫は、物のありがたさが分からない、だから、猫に小判なんていうのさ、豚に小判ともいうけれどね。
他にも数え切れないほどの悪口や自慢や欠点を言い合いました。
その中には、猫にまたたびとか、猫の目とか、猫の額とか、猫も杓子もとか、犬の遠吠えとか、犬と猿とか、犬も食わぬとか、犬も歩けば棒に当たるとか、辞書に出てくる言葉がたくさんありました。
互いに、考え付く数え切れないほどの、自分の自慢や相手の悪口を言い合いました。
にゃんにゃん、わんわん、と互いに相手の欠点を探し出して、犬と猫は喧嘩を始めました。
イロリは、どちらの言うことも一理あると思いました。そして、どちらが偉いのか、無理に、決めることも無いと思いましたので、目を閉じてわざといびきをかいて、眠ったふりをしていました。