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腕時計を見る。時刻は昼の13:00を過ぎた頃だった。
今日は午前中10時から村松さん家の引越しの手伝いをこなし、午後15時からの鈴木さん家の犬の散歩まではフリーだ。花屋の手伝いをする、と言ったが彩女さんがいるから気分転換に散歩でもしておいで(特に月見ヶ丘中央公園辺り)←場所指定
と言われなんとなしに歩みを進める今現在。
(…てか探偵業が最早便利屋になってるような)
いや、皆まで言うまい。仕事を選んでいては収入にならないのだ。そう納得すると、公園の溜池の周りを歩く。
初夏の爽やかな風が頬をさらう5月。生い繁る緑の木々、その木漏れ日を見上げては眩しさに目を細めた。
風が横髪をすり抜ける。
「それ」は、すぐに目に飛び込んできた。
木々の切れ間、その日向に立ち、溜池沿いの柵に腰掛け顔をもたげる一人の男性。
暦は初夏だと言うのに、それにしてはやや暑そうな黒のジャケットスーツに身を包み、ネクタイはしていない。長駆で細身の、黒髪。
思わず立ち止まると、相手型が気がついたらしい、目が合うと優しく笑った。
「ーーーよう」
「…あ、で…」
「…久しぶり」
さりげなく両手を広げ、笑顔を向ける。それにつられるように笑顔を零すと、私はーーー。
「ーーーぐはッ!?」
阿出野の鳩尾に思い切り鉄拳をお見舞いした。
「お前なあ!出てくるならそう連絡しろよ!知らなかったから午後も普通に仕事だわバカ」
「えっ…!?いや、ハガキ…ハガキで事前に連絡を…!」
「知らないよ届いてないよ、住所間違えたんじゃないのか」
「え!?でもじゃあなんでここにいんの!俺葉書にここで待ってるね的なメッセージ書いたからそれで来てくれたのかとってゆーかいいパンチだったなさっきの物凄くいてぇ…」
内股でみっともなくその場に蹲るその様子が懐かしくて、ぷっと噴き出す。
上から彼を見下ろしてそっとスーツの裾を掴むと、嬉しさにくすぐったくなった。
「ーあで、少し歩こう」