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RUSH  作者: 或田いち
FILE8.安全装置(ストッパー)と起動装置(スターター)
195/201

21

 

 良かった。



 そう呟くと、やがて阿出野の手を掴んでいた成滝の手が、滑り落ちる。抱きかかえた腕に、ずっしりと彼女の重みがのしかかってきた。地面に触れた手が、それきり動くことはなかった。


「…なる?」


 ふと、彼女の横髪に触れる。白い肌。長い睫毛。もう反応を示さない。手を握る。まだ暖かい。たった今名前を呼んだのだ。名前を呼んで、笑ったではないか。


「なる、」


 抱きしめる。強く、どうしようもない想いだった。


「ーーーなるっ…!!」


 なんで。なんで。ちくしょう。ーーーーどうして。

 彼女の肩に額を押し付ける。人の感情を取り戻した獣の、悲痛なまでの慟哭だった。





 間も無くして、はたと気づく。


「…、」


 ふと、耳を澄ませる。確かに聞こえた。

 僅かな呼吸音。体を起こして手首に触れる。脈打ってる。いざ成滝をみてみると、スヤスヤと寝息を立てていた。


「えっ」


 思わず涙が引っ込んだ。何が何だか理解できない阿出野に、隣で倒れこんだままの田賀谷が開口する。


「…単なる麻酔弾だよ。…こんな時ですら自分の身が可愛いんだ。自殺する度胸もない臆病者だ、俺は」


 上体を起こし、田賀谷を見る。阿出野の瞳には、先ほどの殺意は込められていなかった。


「…あんた親父に裏切られたっつってたけどそれ思い違いだと思うぜ」

「…何を…」

「だって仕事嫌いな親父があんたの話してる時だけは、なんだか生き生きしていたからな」




 遠くで、サイレンの音がしている。

 この懐で眠る彼女が呼んだものだろう。スヤスヤと寝息を立てる成滝の頬を軽くつねると、阿出野はしてやられたといった様子で舌打ちをして。

 彼女を強く、強く抱きしめてやった。


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『いやいやまるでダメ。あれじゃろくな戦力になりやしないよ。ボンクラってのは正にああいうのを言うんだろうな』



 笑い声を掻い潜り、その場を逃げるように、田賀谷は踵を返した。


『うわーひっでえ(笑)

 田賀谷が今の聞いてたら、恨まれますよ』

『それでもいいんだよ』

『え?』


『俺を憎んでムカついて腹が立って…越えてやるって気持ちで臨んでくれればそれでいい。


 あいつには、期待してるんだよ』

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