20
「不思議なもんだよな。信頼っていうのは築き上げるのにばかり時間がかかって、壊れるのはいつも一瞬なんだよ
…真野さんのことがその典型だ」
「…」
「ずっ…と考えてた…あの人に裏切られた時から。どうにかしてこの憎しみを知らしめる方法がないか。
でも思ったより簡単に事は運んだよ。何せ勝手に死んでくれたんだもんな。…心中するのは予想外だったけど、でもそのおかげで息子のお前に近づく口実も出来て好都合だった」
涼しい瞳が阿出野を捉える。成滝の後頭部に銃口を向けたまま、阿出野はと言えば、今に引き金を引いてもおかしくない姿勢で、じっと田賀谷を見据えていた。
その目は光で満ちている。
間も無くその片方から、光は涙となってこぼれた。
「な、どうだよ。信用してた人間に裏切られる気持ちは」
「. ..」
「…死にたくなんだろ?だから殺したんだよ」
これが俺の動機だ。
ふと、後頭部にあてがわれていた鉄の塊の感覚が消える。振り向くと、田賀谷は銃口を自分のこめかみに当てていた。
弾かれたように手を伸ばす。
「やめろ!!!」
田賀谷の片腕を掴む。強い力だった。当然だ、男女では体格も腕力も差がありすぎる。それでも諦めたくなかった。こんな終わり方あるか。死なせない、誰一人。もう死なせてなんかたまるか。
一向に抵抗をやめる気配はない。知るか。噛み付くように拳銃にしがみついた。
そして。
パン、と乾いた音が工場内に響き渡った。
「ーーーーなる、」
背中から呼びかけられて、返事をしよう。…そう思うのに。力が入らない。
ふと、腹部を見る。赤い、血が滲んでいた。
「ーーーーなる!!!!」
倒れこむ。拳銃は私の手の内にあった。よかった。視界の傍で田賀谷は倒れこんでいる。思いきりその拳銃を遠くへ投げると、勢い余ってその場に倒れこんだ。抱きかかえられる。視界がくらくらと揺れている。 それでも誰が目の前にいるかはわかった。
「…あで…」
「バカお前っ…待ってろすぐ救急車呼ぶから!しっかりしろよ!」
私を抱きかかえたまま懐に手を伸ばす阿出野、その片手を掴む。よほど焦っているのか、見たこともない動揺を浮かべる阿出野をみて笑顔が浮かんだ。
「…いつもの、あでだな」
「…なに言って…俺は、…俺だよ」
「うん」