18
衝動、だった。
構えた拳銃の引き金を容赦無く引いていた。ズガン、と音を立てて、銃弾は田賀谷の眼鏡のフレームを捉えて、彼の眼鏡を吹っ飛ばした。
白い肌、その頬骨に赤い筋が刻まれる。
「なんでだ」
震える。こんな時に何を考えて、犯人に同情するなんて。恨み、憎しみ、怒りがない交ぜになって息をするのもやっとだった。
「なんで殺した」
「…」
「あんたが貶めた俺の親父は追い詰められて家族殺してんだよ。知ってんだろ?俺の妹だ」
「…」
「親父が死んだ時あんた葬儀にいたよな。お袋にも声かけてた。どういう神経してあの場所にいたんだ?」
「…」
「な、教えてくれよ」
「妹が。夕凪が殺されたこと聞いた時、あんたどう思ったんだ」
「…不憫だと」
「 」
片手で構えていた拳銃に左手を添え引き金に指をかけた所で、物陰から何かが飛び出して来た。
半ば転がるように現れたかと思うと、すかさず田賀谷を庇うように体勢を立て直して大手を広げる。ボサボサの髪。華奢な体、への字口の、
まっすぐな瞳。
この状況で現れた成滝に、阿出野は最早驚かなかった。代わりに鋭い眼光を向ける。
「…邪魔だどけ」
「…どかない」
「どけ」
「どかない!」
「撃ち殺されてぇのか!」
「お前に人は殺させない!!」
「…例えそれが私でも」
シン、と空間が静まり返る。音のない静寂。呼吸の音すらしない。しばらくすると、糸が切れたみたくふっと背後から息が漏れた。
「…やっぱり気付いてたんだね成滝さん」
「…」
「君なら来てくれるって思ってたよ。俺を護るために」
「 黙れ 自惚れんなよ。私はあんたを助けに来たわけじゃない」
気付いたのは阿出野に連絡をもらったあと。田賀谷の手がかりを探すためひっくり返した鞄の中から、最後に田賀谷と行ったカフェの伝票が現れたのだ。
そこには、この場所の名前。
「…でも君も本当に単純だね。そんなんだから騙されるんだよ。…目障りだなぁ…まるで昔の自分を見ているようで」