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あ、そう。簡単な相槌を打って、そっぽを向く。それでも笑顔を絶やさない田賀谷に対し阿出野は横目でその表情を捉えてから、周りを見渡した。
「…で?真犯人はどこかな」
「連れて来てるよ、とっくだ」
「おう」
「…」
「…」
田賀谷は待ってろ、そう言って一度物陰に足を運ぶ。そして数秒も経たない内にもう一度姿を現した。
「…ふざけてんのか?」
真剣な声だった。両手をスーツのポケットに入れたまま、上目で告げた一言に何を言うでもなく。田賀谷は笑った。
その目だけは鋭い眼光を光らせたまま。
「ーーーお前の家族殺した真犯人は俺だよ」
「…」
阿出野は、俯く。そしてすぐ、くくくと笑い出した。おかしい。笑いが込み上げてくる。そっぽを向く。そして向き直った拍子に銃口を向けた。
田賀谷もまた同じタイミングだった。銃口と銃口が向かい合う。絶対的硬直状態の中で、先に口火を切ったのは田賀谷だった。
「…覚悟はしてたよ。いつかこんな日が来るんだろうなって」
「台詞が二番煎じ過ぎて新鮮味もありゃしねえな」
「表現力の拙さを呪うよ。我ながら」
これでもエリートなんだぜ。お前の父親は、そうは思わなかったらしいけど。そう言葉を紡いでから、また笑顔を貼り付ける。
この男が母親の遺言で自分のそばにいると決まった時も確か、同じような笑顔を浮かべていた。ーーーでも、どれもこれも、全部嘘だった。
「…早く真犯人呼んでこいよ」
「この期に及んでまだんなこと言ってんのかよ阿出野。現実見ろよ、らしくねぇぞ」
「早くしろよ!!」
悲痛な咆哮だった。その声は工場内を反響し、今一度跳ね返って田賀谷に届く。
犯人は、ただただ無音だった。眼鏡の奥で、硝子玉のような瞳を瞬き、じっと阿出野を見据えている。それはまるで、レンズの奥で人間の目は、こんな構造をしているのだな、と探り情報をインプットしているかのような、そんな眼差しだった。
「もう一度だけ、言うな」
「…」
「お前の父親を解雇するよう冨樫を脅して、自殺に追いやったのは紛れもないこの俺だ」