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こいつ何のためにこんな時にわざわざ電話かけてきたんだ。いつでもかけられるのなら今にも通話を切ってやれたものの、そう出来ないのにも訳がある。
あでが私に伝えたい事を聞いた上で、田賀谷のことを聞き出さなければ。
「…なんか用?」
《いや別に?そろそろ俺を捕まえられなさすぎて泣いてる頃かと思ったから》
「泣かないわボケ」
《てーのは建前で俺がなるの声聞きたかっただけ。…まさか出るとは思わなかったけど》
数秒の間が流れる。風の音がする。あでは今、風の強い場所にいるのだろうか。
「…冨樫の件ニュースで見たよ。…お前破天荒すぎ。…どこまで暴れたら気が済むんだ」
《いや、それほどでも》
「褒めてないよ」
《や、まぁ、ね…けどさ、俺がずっと復讐しようと7年間憎み続けて来た男はただの実行犯で本当の犯人じゃなかった。…なのに何でかな。あいつが捕まって、それに満足してる自分がいる。
信じて疑わなかったせいか頭が真っ白になった。…冨樫にも言われたよ、とんだ間抜けだってな》
先ほどとは打って変わった落ち着いた声色は、それでいて怒りは感じられず、文字通り淡々と話しているように思えた。
「…あでは間抜けなんかじゃないよ。お父さんと…妹さんの無念を晴らそうと、必死になってもがいてただけだ。
事実冨樫が犯人じゃないとわかったら、お前は彼を傷つけなかったじゃないか」
《殴ったけどな》
「挑発されたからだろ」
そうでもなければ、あでが人を傷つけたりなんかしない。傷つけられた者の痛みを、誰よりも知っている人間だからだ。
「あでが、誰よりも優しい人間だっていうのを。私は一番知ってる」
《よせよ。泣きそうになる》
ふふ、と笑ってやったら、受話器の向こうでも相手が軽く笑っている声が聞こえた。
「…お前これからどうすんの」
《…別にどうもしねえよ。真犯人と真っ向勝負だ》
「私も行く」
《わからず屋。お前がいたら足手まといだろ》
「ーーーだってお前一人で行ったらまた
《 なる 》