13
「あんたさ。もうわかってんだろ?犯人」
阿出野は振り向かない。
背を向けたまま、小さく息をつくと。小さい子を宥めるような口ぶりで吐露した。
「…お前さ。なぜ人が真実をひた隠しにするかわかるか」
「…」
「保身の為だよ
人は自分を守るために真実を捻じ曲げ証拠を偽りに放棄する
どんな時代でも同じだ」
どんな理由があったにしろ、自分の身を護る為に人を遣い。全てを闇に葬り去ろうとした、真犯人を絶対に許さない。
背中越しでも伝わってくる。そのおぞましさは、人ならざるものの意気込みだった。獣、それと似ている。いつか感じたあの獣を。こいつはずっと心に飼っているのだ。
「……死ぬよ、あんた」
「はは。せめて相討ちがいいね」
「なるにはなんて説明するつもりだ」
「海外に高飛びしたとか言っといて」
「そんなんで納得すると思うの?」
硬いこと言うなよ、いいもって大手を広げ誤魔化す為に振り向く。阿出野は驚いた。体を起こした高草木は、痛みに一瞬顔を歪めて。口の端を引き上げた。
「あんたに人は殺せない。そんな度胸ないからね」
「…」
「それに、なるが絶対そうさせない。見てろよ、あんたが見逃した7年で、彼女が成し遂げた成長の成果を」
「…あいつは、なるは、俺の安全装置だからな。あいつがいるなら、思いとどまれるかもな。あんま、自信ないけど」
「あれよ」
間髪入れず突っ込むと、阿出野はニカッと歯を見せて笑った。
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「なるがいれば、あいつは思いとどまれるよ」
まだ、間に合うよ。高草木はそう言って、優しく微笑んで見せる。こんな時ですら自分の身より誰かを思う、思いやりを持った相棒を、心から誇りに思うのと同時に。
かけがえのない存在だと、痛感する。
「7年間ずっと諦めなかったのも、このためでしょ」
「…高草木」
「おれはずっと見て来たから知ってる。隣に居てくれたらそれが勿論一番だけど。おれ、なるには笑ってて欲しいから」
好きな人には笑ってて欲しいから。
じわりと溢れ出るそれには気づかれないように、俯いて笑って見せる。手の甲で鼻を抑えてすすって見せると、額を拳で小突かれた。
「いってらっしゃい、我らが探偵」