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酷い、頭痛がする。
閑散とした裏路地を歩く男の頭の中では人の声が飛び交い、都会の喧騒のど真ん中に立ちすくむ幻覚を見ていた。
ろくな 戦力 になりやしない
ボン クラ って のは正に ああ 言うのを…
能 無し
あは はは は は
つかえ な い
ははは
ーーーーーガチャ。
奥歯を噛み締めて俯く男の後頭部を、冷たい鉄の塊が捉えた。意識が覚醒する。額に脂汗を浮かべたまま、それでも彼は冷静だった。
「…これはどういう風の吹き回しかな」
背中で荒い呼吸が聞こえる。振り向かずとも誰かは察知出来た。自分が仕向けた人間。そうだ。
スーツの上にビニールのパーカーを羽織った冴木が、自分に銃口を向けていた。
「田賀谷さん…あなた僕を騙しましたね」
「…何のことかな」
「とぼけるな!…僕は阿出野さん、うちの興信所を狙うジャーナリストがいるから、…僕に拳銃まで渡して彼を護ってくれというあなたの指示に従いました
…しかし僕が撃った彼は、ジャーナリストなんかじゃなかった」
声が震えている。泣くのか?みっともない。冴木の動揺が伝われば伝わるほど、興醒めして落ち着きが取り戻せた。我ながら、歪んでいる。
「彼が阿出野を脅かす因子であったことは間違いない」
「嘘だ!調べましたよ彼…ただの一般市民じゃないですか!それにもしそう思ってたなら、何故部下を…僕を使ってあんなことさせたんですか!阿出野さんを護りたいと思うなら貴方が動けばよかったじゃないですか!なのに貴方は僕を遣った!」
「冴木くん。俺はね、上司として部下である君たちを護る義務がある。そしてそれは君たちにも言えること。外部から君らを狙うものがあるならそれを俺は排除するし、逆もまた然り
俺が危険にさらされた時君たちは俺を護る義務がある
それは部下としてじゃない、"会社"に勤める者の規則だよ」
振り向かないまま告げる田賀谷の言葉に、冴木は涙で濡らした顔を左右に振った。
「…そんなのは規則じゃない…権力による制圧だ」
「冴木くん」
「貴方のやり方にはもううんざりです…僕はもう耐えられません
…この手で人を傷つけてしまったんです
取り返しのつかないことをした
…自主します。田賀谷さん、ーーーあなたを道ずれにして」