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「…その人が私の相方を撃つ動機がわかりません」
「君がさ。…俺の話した阿出野の情報を頼りに動き出して、ろくになんの成果も得られなかったろう?代わりにその相方くんが阿出野の情報を嗅ぎ回っていた。それを知ったうちの秘書が、彼にまつわる反抗分子だと勘違いしたんだろうね」
「…そんなことってあるんですか」
「さあ。俺は可能性を提示したまでだよ」
「…」
「君も探偵を名乗るはしくれであるなら、あとは自分の頭で考えて見てよ」
「今日は随分とつれないんですね」
「余裕が無いからだろうね、何かと」
田賀谷がここに訪れたときとまるで形勢逆転しているようで、妙な焦燥感を覚えたが、それきりその感覚が再浮上してくるようなことはなかった。
疑問を確信にするべく、私は今日、ここへ来た。きっと彼もまたその覚悟はあったのだろう。核心には触れない。
それでも答えを導き出す。
「貴方は私に対して何故いつも真実を話してくれるんですか?」
「俺が正直者だって言いたいの?ご冗談…君が疑わないだけだよ」
「そうなら何故わざわざ私を見つけて阿出野のことを教えてくれたんです」
「…」
「田賀谷さん」
「簡単だよ」
答えは。
彼の目が窓の外を見る。眼鏡の奥でどこか憂いを帯びた瞳が揺れた。
「君が昔の俺に似ているからさ」
「…あなたに」
「こう見えても昔はね。まっすぐで向こう見ずで。何も疑わずに生きていた。世界中の理不尽も、自分がもがけば、努力次第でひっくり返せるんじゃ無いかって。いつも信じていた、そんな時があったのさ」
「…私はまっすぐじゃないですよ。少なくともあで…阿出野に救われていなければ、きっと歪んで、その心を立て直すことはできなかったでしょう。思うものはあります。叶わないことを出来うる限り理想に近付けたいと、でも叶わないことに私は立ち止まってばかりいます」
「それでも君は諦めないじゃないか」
「負けず嫌いだからですかね」
「そうまでして、君を突き動かすものは何かな」
売り言葉に買い言葉とまでは言わずとも、トントン拍子で繰り広げられていた会話、そこに小休止が挟まれる。
正面から田賀谷に見据えられ、私はたじろぐ。それを言うのはどこか憚られたが、でも「彼」への気持ちに整理をつける一番のチャンスだと思った。