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隣で寝息を立てる彩女さんを見る。気疲れしてようやく眠りについたのであろう彼女を今眠りから覚ますのは忍びなかったし、それに、
「人がたくさん来ると困るからこのタイミングで来たんだろ」
被害者の前に三度現れるのは仕損じたと把握した犯人か、その真実を知りたい第三者のみ。その定義を前にすると、阿出野は一瞬狼狽を見せたが、直ぐに居直り小さく吐息をついた。
「…お前、誰に撃たれた?」
「来ないと思ってました」
喫茶店の片隅。ソファにかけて背筋を正していると、田賀谷はすぐ姿を現した。昨夜の時とは雰囲気がまた違う。仕事スタイルだろうか、前髪は下ろしたままでスーツもネイビーの落ち着いた色合いだった。
「なぜ?来るよ」
にこやかに笑い、私の向かいの席に腰掛ける。速やかに注文を尋ねに来たウェイターに珈琲を注文したのを確認すると、すぐ開口する。
「相方が撃たれました」
「みたいだね、てか昨日大丈夫だった?ごめんねお酒弱いって知らなくて俺」
「貴方は知ってますよね」
笑って話を逸らそうとするその流れに逆らって言葉を被せた。真っ直ぐ彼を見据える。彼は目を丸くしたあと、直ぐ空気を察知して瞳の色を変えた。
「……何を?」
「全部です。私の相方を撃ったのは貴方ですか?」
「今日はなんだか刺々しいね。怒った顔も可愛いけどさ」
「貴方が撃ったんですか?」
はぐらかすな、と頭では言ったつもりでそれとは違う言葉が口を衝いて出た。声が震える。怒りでなのか恐れでなのか、最早わからなかった。
「…君はその問いを投げかけて、俺になんて返事をして欲しいのかな。俺は、YesかNoで答えたらいいのかな」
「私は真実が知りたいんです。いつも出遅れる。私でなく、他の誰かが傷つくのはもう嫌だ」
ぐっと堪える。込み上げて来たものを必死の思いで押しとどめた。
数秒の間。その間に先ほど田賀谷が注文した珈琲が届いて、彼はそれを手に取り一口含むと、そっと珈琲カップを皿に戻した。
「…残念だけど、君の相方くんを撃ったのは俺じゃないよ」
「……じゃあ一体誰が」
「信用するんだね。こんな俺の言葉」
「貴方は私に対して嘘をつかないから」
何故かは、わからないけれど。そう言って俯く私を正面でどんな顔をして見ていたのか。間髪入れず、彼の言葉は降ってきた。
「撃ったのはうちの秘書だよ」