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「タバコ、吸ってい?」
「おれの意思を代言してくれる処置が、この病院には既に備わってる」
寝たまま天井の火災報知器を顎でしゃくって見せると、阿出野は白けた表情で口にくわえた煙草を渋々胸ポケットに閉まった。
阿出野はあたかも当然のように丸椅子を引き寄せてベッドサイドに腰掛けているが、その真向かいにて寝こける彩女さんが目覚める様子はない。
「撃たれたらしいね。ざまあみろ、調子に乗って人のことコソコソ嗅ぎ回ってっからだ」
「おれの記憶違いでなければ次会うときは容赦無く捕まえにかかるって言ったはずだけど」
「その身体で俺が捕まえられんの?」
足を組み、頬杖をついてニヤリとほくそ笑む横っ面を、この体でなければすかさずぶん殴ってやるのに。こいつは病人にこれ以上にないストレスを与えて、何をしに来たと言うんだ。
「…人が弱ってんのをいいことに偵察にきたのか。クズのやることだ」
「まぁそうカリカリすんなや、こう見えて俺だってそれなりに心配したんだぜ」
「…おれを見つけてくれた人が心配して駆けつけてくれるなら気持ちはわかるけど、赤の他人のお前に見舞いに来られる筋合いは無い」
「赤の他人も何もお前を見つけて通報したのは俺だよ」
数秒の間が流れる。
「…寝言は寝て言えば」
「ほんとだって。朝方、ホテルになるを置いてそのまま出て歩いてたら公園でお前がくたばってて」
「え、"なる"と?"ホテル"?」
「…あっ」
やべっ、と慌てて口を抑える阿出野。そして流れる数秒の間
「メテオストレート」
「いや違ッ!?これには深い訳があって」
「タイキック」
「つか俺別に何もしてな」
「上段回し蹴り」
「さっきからなにそれ怖いんだけどやるんだな身体治ったらやるんだな!?」
殺す。こいつこの体が動くようになったらいの一番に息の根止めてやる。両脇に手を引っ込め冷や汗をダラダラ垂らすそいつをこの目からビームさえ出たら殺してやることだって難しくないのに。
そのときばかりはそう念じてみたものの、つきりと腹部が傷むとさすがにそれどころではなくて、苦痛に顔を歪めた。舌打ちをする。なんでよりによって、こんな時に。
「…おい大丈夫か。看護師さん呼ぶか」
「…いーよ…おれの目が覚めたのはついさっきで、いまここにいるあんたしか知らない。…多分呼んだら彼女も起きるし」