11
「別に期待してた訳じゃなかったけど…
でもなんて言うか。今のお前を見たら、ガッカリした」
蹲ったままぼそりと呟いた声は膝の中でくぐもったまま。相手に届いたかどうかわからない。
ただ行き場のない想いは宙ぶらりんのままその空間を漂い。それを察知したのかどうだか。あでの声は呆れた風だった。
「お前さ、もしかして俺の言葉信じてずっと俺を探してたわけ?高校出て、大学出て…てかお前仕事は?今なにやってんの」
「………探偵だよ」
「ぶはっ」
おずおずと切り出した言葉に、あでは糸が来れたみたく噴き出してはベッドの上でのたうち回る。なにがそんなにおかしいのか、下品な笑い声は狭い部屋で鬱陶しい程耳にへばり付いた。
「何がおかしい!笑わせる冗談を吐いた覚えはない!」
「おかしい!おかしいよお前!だってさ!お前それ…自分が探偵なのに人に頼んで俺のこと探してたわけ!?探偵のプライドとかないの!」
「それは…私だって始めは自力で探していた!でもどれだけ探しても見つからなかったから」
「それ世間じゃ口実って言うんだ。
そーだよな、嘘でも探偵名乗って動いてりゃあプー太郎でも自称で誤魔化せるもんな。ついでに堂々と俺を探すことも出来る…考えたねぇ、でもそこまでしてお前が俺を探す理由ってなに?
お前俺のこと好きなの?」
「は…何でそうな」
立ち上がって顔を上げた瞬間、眼前に白い壁が立ち塞がって目を見開いた。あでの上半身だ。阿出野ほどの長身であれば狭い部屋で一歩を踏み出して進む距離は限定されない。要はベッドから起き上がり、私の間合いに入るのも数歩で可能ってわけだ。
わざと逃げる為に体を傾けると、その反動を利用して伸びて来た腕が私の肩を弾き飛ばした。
反転した世界に驚くのも束の間、あでに組み敷かれる形で私たちは目を合わせた。
その時になってようやく、私は彼の狂気に触れたことに気付く。私は知っている。この鋭い眼光を。7年前にも一度、確かに見たことがある。
、、、
読めないこの男がキレたとき、何故怒っているのだといつも思う。