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まっすぐ歩いていると誰かが背中を押してきて道端にすっ転んだ。振り向くとそこには、なにも、なくて。
前を向くと一筋の道が繋がっている
(…まだ、だめってか)
多分うしろの道を行けばものすごく楽なんだろうけど。それは多分、違って
足は意思とは裏腹に前を向くように作られているから結局選択の余地なんてない
(…しゃあない)
ーーーー生きますか、
そんな夢を、みた。
「ーーー…」
うっすら瞼を開くと、ぼんやりとした視界に黒い線が見える。時期にそれがタイルで、病院の天井だと気付くのにはドラマや映画なんかに見覚えがありすぎて
全く時間はかからなかった。
そう広くない個室。その病室の片隅、ベッドで横たわっている。白いカーテンは開いた窓からの風を受けてふわふわとはためき、寝息に振り向くとベッドに両腕を枕にして眠る、彩女さんの姿があった。口元からこぼれたよだれはキラキラと輝いている。
「………」
やや体を動かすと、猛烈な痛みが体の中心に走った。腹部辺りだ、そこで気づく。あ、おれ撃たれたんだ。
(…しぶといね、おれも)
あのときはなるじゃなくてもいいから誰かに見つけて欲しいと願った。たった今目を覚ましている辺り、その悲願が叶ったらしいが、結局自分を見つけたのは誰だったのだろう。
どちらにせよその誰かのおかげでいまこうしていられるのだ。願ったり叶ったりである。
病室の扉が、カラカラ、と小さな音を立てて開いた。目だけを動かす。
だれ。口では声を出しているつもりだったのに、空気だけが漏れた。黒い影。スーツのシルエットが見える。黒い影がのびる。長い腕が視界を横切る。
そこでーーーーー
「Σいっ…!?、」
目の前を横切ったスーツの男の腕を、片腕が捕まえた。ほぼ反射だった。同じタイミングでずきりと腹部が悲鳴を上げたが、歯を食いしばって耐えた。
「ゴリラか、お前は」
長い腕の先にぶら下げていたフルーツバスケットを軽く掲げると、そいつ。…今最もお呼びで無い男。
阿出野、そいつが嫌味ったらしい笑みでニタと口角を引き上げた。