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「…お前の大事な、大事なお姫様を預かってる。どうやら酔って寝ちゃったみたいだなーかわい。
彼女を帰して欲しければ20分以内に都内でも有数の高級ホテル・1003号室へ来い」
《ーーーは、田賀谷…てめぇ、》
「別にロリコンじゃないんだけどさあ。俺まだ30だし。ただこう、寝てる女横目に理性保てるほど、俺もまだおっさんじゃないらしい」
《おい、待てやめろっ、》
「ヒントはそうだなーーー…遠くに、観覧車が見える」
早くしないと食べちゃうぞー♪と明るいトーンでスマホに告げ、盛大に通話ボタンを切る。GPSで検索かけられては反則なので、ついでに電源も落としてソファの上に放った。
振り向き、ネクタイを緩める。すやすやと寝息を立てる彼女、成滝の横髪にそっと触れると、それきり田賀谷が成滝に触れることはなかった。
思いきりホテルの部屋が開き、飛びのいたのは電話をかけて13分16秒後だった。ベッドの脇のソファに座ってタバコをふかしていた田賀谷は座ったまま目を見開く。
「ーーーおぉ。阿出野。よっ。早かったね」
「……田賀谷てめぇッ」
知り得る高級ホテルを駆けずり回って、ようやく阿出野が嗅ぎつけた田賀谷たちの居場所、ホテルロイヤルに辿り着いたのは既に5件を回った後だった。田賀谷と成滝を交互に見るなり田賀谷の胸ぐらを掴み、引っ張り上げる。
一兆前に前髪をあげて気取っているところも腹が立った。こっちが息も絶え絶えのところ、涼しげにタバコをふかしているところも。
「しーッ…静かにしろ。彼女が起きるだろ」
「なるは一度寝ると中々起きねぇんだよ!」
「へえ(笑)さすが同級生。よっぽど彼女のことは御存知なこって」
ね?嫌味な笑顔を向けられ、乱暴に掴んだシャツを離す。くたびれた。今日は、いろんなことがあって…本当に、疲れたのだ。精神的にも、肉体的にも。
倒れこむように壁際にしゃがみ込む阿出野を尻目に、田賀谷は意味深に笑った。
「冨樫は白だったろう。あれは、単なる実行犯だからな」
「………」
「そうするように仕向けた人間がいる。お前の親父さん…真野さんを貶めるために、冨樫を利用してまで自分の手は汚さなかった人間が」