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え?と聞き返すと、笑顔で左右に首を振られた。頭にクエスチョンマークを浮かべたまま、またワインを一口、含む。
口付けたグラスを指で拭うと、思い出し、本題を切り出した。
「…あ、それより田賀谷さん、阿出野について話しそびれたことって」
「ーーーあぁ、それね。あのさ、俺、阿出野の父親…真野さんを貶めた奴は冨樫正信だと断言したけど、実はそれにはつづきがあるんだ」
「…つづき?」
「…あぁ。…冨樫は…ある人間に指示されて真野さんを切っただけに過ぎない。イコール、彼がそうするように仕向けた奴がいる
そして、それが阿出野の追う事件の真犯人だ」
「!? それっ、て…」
どういう、こ、 と。
そう言ったつもりで、ぐにゃりと世界が捻れた。マーブル色に染まり、田賀谷さんの声もボヤけて鮮明に届かない。…眠い。
最後に視界に映ったのは、ワインだった。あれ、そんな度数強かったの、かな?落ちるようにブラックアウトする間際、正面で田賀谷の口元が僅かに弧を描いたように見えた。
スーツの胸ポケットの中で、スマートフォンがバイブする。それを取り出し、ディスプレイに映った田賀谷の文字を見て、阿出野は間髪入れずスマホを耳に押し当てた。
「なんだ!」
《おーおっかね。怒るなよ。元気?》
「………っ」
《その反応はついに冨樫を追い詰めたな?でも、自分が思っていたのとはお門違いの展開に衝突して、混乱してる。そんなとこか》
「………お前なんでそこまで」
《俺がお前の監視役だからだよ。生前、お前のお袋さんに頼まれた事を忠実にこなしているまで》
明るく、軽い口ぶりに嫌気が差す。やるせない気持ちのまま、このまま受話器を切ってしまおうとも思った。その寸前、田賀谷が待ったをかける。
《な、お前今暇か》
「………暇じゃねえよ」
《ゲームしようぜ、阿出野》
「ゲーム…?」
《お姫様奪還ゲーム》
高級ホテルの一室、上層階。ガラスごしに映る東京の夜景を眺めて話すその背中には、ベッドに横たわった成滝が寝息を立てている。