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「…あの、場違いじゃないですか、私」
酒のうまい店、というからにはどこぞのBARなんかを予想していたと言うのに、いざ来てみれば指示された場所は高級ホテルの最上階のレストランで、しかも人はまちまちだ。
ソムリエ?のような人がワインをつぎに周り、他のテーブルに座る男女は夜景を眺めながらしっとりとした雰囲気を満喫している。
「別に場違いじゃないよ。君は美しい」
「それシャレですか」
「シャレじゃないって(笑)
そりゃ確かに周りはドレスアップした貴婦人が多いようだけど、俺は自分らしさをどこでも振りまける女性の方が、よっぽど魅力的に見えるよ」
頭ボサボサで、ノーメイクでも?脳裏でツッコミ、何と無く横に跳ねた髪を手櫛で整える。窓ガラスに映る自分を見て姿勢ばかりは正して、半ば自棄にワインを流し込んだ。
「料理はどう?口に合うかな」
「美味しいです。なんか油っぽいですけど」
「それオリーブオイルで和えてあるからね」
口元をナフキンで拭い、もぐもぐと料理を口に運ぶ。気が乗らない、とかそんな理由でまともに食事をとっていなかった口でも、味の美味しい高級料理は受け付けるようで、思い出したように食べ始めるとどんどん手が前に出た。
周りが食事より会話を楽しむ中、私は料理にがっついている。
「あはは、でも口にあったようで何より」
「田賀谷さんありがとうございます、なんか」
「ん?」
「…私のこと元気付けるため?に呼んでくれたんですよね、…こんな仕事していると、人を疑うことばかり板についてしまって
本当の人の優しさというか、そういうものに鈍感になっていたのかもしれません
「と言うと?」
「…阿出野のことを調べるにあたって貴方の事も誤解していました、阿出野にとっては良き理解者でも私にとっては突然現れた他人でしかありませんから
…怪しい人間だと、僅かに、不信感を」
「うわあ、それは酷いな(笑)」
「しかし今日の貴方の態度を見て思いました、貴方根は悪い人じゃないんですね。でなければ、出会って早々こんな私のためにこうまでしてくれないと思うので」
ジャガイモを口に含み、もぐもぐと咀嚼する。バターソテーの味わいが濃厚で、飲み込むのが勿体無いとすら思った。
やや間を置いて、黙っていた田賀谷さんが開口する。
「…俺の場合下心があるからでしょ」