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「喚くなっての…まだ夕方だよ?お前が思うほど客なんかいねーよ」
証拠さえ撮れればそれでいいのだ、と続けてあではそのTV画面を落とした。画面を付けていなくても録画は出来るらしい。それを知って心底安堵した私は、ズルズルと壁伝いに崩れ落ちた。
「おーい。大丈夫か」
「…大丈夫じゃない。帰りたい」
「じゃ、帰れば?」
いつの間にかベッドに大の字で寝転んで肘をついたまま、そいつは怠そうに言う。
「お前が連れ込んだんだろーが。それにあではどうすんだよ」
「俺は明日の昼に博己の父親と面会するまでフリーだから。とりあえず寝る。最近寝不足だしな」
ふぁ、と情けない顔で大きなあくびを一つ。むにゃむにゃと目を瞬かせたあと、じっとあでを見据える(睨みつける)私の視線に気付いたのか、彼はニコッと笑って見せた。
「あ、それか一緒に寝る?」
「死ね」
「冗談だろ…ムキになんなよ」
つまらなさそうな声で、瞼が諦めて閉ざされる。スーツ着たまま寝たらシワになるぞ、なんて母親みたいなことをいちいち言ってやる義理もない。
騙されるというか、狐につままれるというのはこういうのを言うのかと、ひたすら。
「…話はまだ終わってない」
複雑な心は居た堪れず、座り込んだまま膝を抱えて蹲った。
「俺のことが知りたいんだろ?…聞けよ、根掘り葉堀り。どこまで調べた?親父のことは?」
「親父?いや、私が調べたのはお前の所在だけだ。それもわかったのはつい最近…本当に色んな所を訪ねては探し回った。人にも頼って探してもらった、でも中々見つからなかった。…で、やっとのことで嗅ぎつけた興信所から出てきたお前を見つけたのが今日、それだけだよ」