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音が部屋に鳴り響いて、覚醒した。
…何時間、経ったのだろう。阿出野の手紙を傍らに、蹲って、しばらく。眠っていたのだろうか。意識が朦朧としている。
三度ピリリリ、と音が鳴り、スマホだと認識する。ウエストポーチの中から音の根源を引っ張ると、誰かも確認せず、受話器の通話ボタンを押した。
「…...もしもし」
《ああ。成滝さんだね。やっと出た。俺だよ。今、お電話大丈夫かな》
軽いトーンで告げるまだ慣れないその声の主は、三秒後にわかった。阿出野の上司で子守役の田賀谷、その人だ。
「…はぁ…」
《ふふ。いや、何も長い話じゃないんだ。ただ、阿出野に関することで伝えそびれていたことがあるから、今晩また会えないかなって》
「…..今晩?」
《お酒は飲むかな?うまい店知ってるから、せっかくだからそこで食事でもしながら話そう》
そんな気分じゃない、と言いかけて、“阿出野に関すること”の前置きを思い出し言葉を呑む。気づけば次の拍子には、行きます、と返事をしていた。
…高草木が電話をかけた時出なかったことも、田賀谷の素性もこれを機に探ってやろう、そんなつもりで。
時刻と場所を告げられ、そのあと電話はさらりと切れた。
「朝よりは少し元気そうかな」
待ち合わせのレストランに先に訪れていた田賀谷さんは、着席した私の顔を見るや否やにこりと微笑む。朝とはまた違う小洒落たスーツを纏った彼はまた一風変わった雰囲気で、よく見れば髪型も前髪を上げたりして、少しおしゃれだ。
それに反して呼ばれるままに訪れた私の服装は朝のラフな格好のまま、しかも腰にはウエストポーチをつけたままだったので、何と無く居た堪れなさに背筋がむず痒くなった。