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冨樫を突き放し起立すると、腰に装備していたショットガン、そのストッパーを外して冨樫に向ける。
解放され自由の身になったと思いきや向けられた銃口に、振り乱した髪もそのまま、ソファの上で仰向けになるとぎぇっとカエルのような雄叫びをあげた。
「…これが最後だ、撤回すんなら今だぜ」
「ほっ、ほんとうだ!本当なんだよ私は言われたとおりやっただけなんだぁ!」
「じゃあ、誰に言われた」
「…..っそれは、」
冨樫が目を泳がせた途端、間髪入れず阿出野の銃弾が真横のソファを撃ち抜く。
「…..ひっ…!わ、私にもわからない!匿名だった、声だって変えていた!なっ7年前…!連絡があって!そのとき言われたんだ!言うことを聞かなければ家族の命はないと…私にも幼い子どもと家内がいて、だからっ逆らえなかったんだ…!信じてくれっ…」
ボイスチェンジャーで声を変えていた?…ちょっと待て。真犯人は冨樫じゃない?じゃあ誰だ。
親父を。ーーー父を、妹を死に追いやった真犯人が別にいる。どういうことだ。一体誰が。
七年間。ずっとこの男が犯人だと信じて生きてきたのだ。そんなはずはない。なぜ。
混乱と焦り、諸々の感情がない交ぜになってふらつく。拳銃を片手に持ったまま、阿出野はデスクに体を預けた。
ソファに仰向けになった冨樫、その汗ばんだ巨体が阿出野を尻目に、にやと口角を引き上げる。とたん、狂ったように笑い出した。
「何がおかしい…?」
「っふ、ふふっははは、滑稽だよ、いや、君はずっと私を家族を殺した真犯人、そう思って恨んできたわけだろう?それがっ、全くお門違いだったなんて、っははぁ、もう、こんなおかしい話があってたまるか、あはっひぐっ ーーぐあ」
「もっぺんいってみろ」
「…..どちらにせよ使えないゴミを排除する役は必要不可欠で、それが私だけだっただけだよ。ゴミ収集者と、焼却担当を履き違えるとはゴミの子どもはやはり、ゴミと、言うわけか」
冨樫の胸ぐらを掴んだまま硬直する。これ以上の屈辱はなかった。自分じゃない。俺はどうでもいい。家族が。指図されたとはいえこいつのせいで全て崩れ去ったと思えば、悔しくてたまらなかった。涙が滲み出る。頬を落っこちた。夕凪の笑顔を思い出す。怒りが込み上げてきた。
相変わらず、狂ったように高笑いを続ける冨樫をぶん殴ると、阿出野は逃げるようにその場を立ち去った。