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RUSH  作者: 或田いち
FILE7.孤独の闘志
166/201

22

 


ー某株式会社ビル・メインロビー ー


「冨樫常務、おかえりなさいませ」


 出入りの多いビルのロビーに一人の男性が足を踏み入れたのを確認すると、フロントの女性二人は起立し、揃って一礼した。中年の男性だ。170ほどの背丈に上質なスーツをまとっているが、ふくよかな腹回りはシャツごしにも把握出来、ベルトの上に文字通り中性脂肪となって乗っかっている。


「私が出ている間に何か変わったことはなかったかね」

「先ほど楠木コンサルの鈴木様よりお電話があって、急用のため今日の15時からの面会は代役で“真田様”がお伺いすると承りました」

「冨樫常務の到着の遅延に伴って、先にお部屋にてお待ちいただいております」

「真田?ふむ、聞かない名前だな…楠木も人員の出入りが激しいもんだ、少しこちらにも分けて欲しいものだよ」


 フロントの女性に悪態をつくと、冨樫はそのままエレベーターに乗り込み28階まで上る。今日は午前中に、昨晩から出張していた京都にて以前から話を進めていた製薬会社との契約を済ませ、昼過ぎには帰社し仮眠をとってから楠木コンサルの鈴木と優雅に話をする予定だった。

 ところが現地京都にて合流した部下・新米山口の失言により契約の話はこじれ、やっと交渉成立にこじつけたと思ったら帰途で新幹線が止まり立ち往生を食らったのだ。

 おかげで面会予定の時刻には30分の遅刻、時間にシビアな鈴木に予定が入っていなければ、今頃他のプロジェクトの話も流れていたかもしれない。


 スーツの胸ポケットから手帳を取り出すと、パラパラとページを捲る。数々の人名がずらりと並んだその人名リストに、「営業部・山口哲」の字を見つけると、冨樫は容赦無くその上からボールペンで赤線を引いた。


「…使えないゴミは処分だ。私の手間ばかり増やす人間など毛頭」


 同じ人として認めてなるものか?手帳を胸ポケットに戻し携帯で連絡する。通話音。電話中だろうか、もう一度掛け直す。

 自分の一言で、今日のあの新米。あれの慌て面を見なくて済むと思うと、清々した。

 応接間の扉を開く。中に人はいない。…代役の真田は?便所かなにかか。さして気にも止めず荷物をソファに置くと、やっと通話が繋がった。


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