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「…よく見つけたな」
呼吸が整って、数分経った頃だろうか。道端の石段に座り込んだ阿出野は、遠くを眺めるその背中目掛けて呟いた。
「数多の情報網を駆使して」
背を向けたまま、高草木はぴっ、と我らが花屋・高草木商店の名刺を後ろ手に翳す。
「いいね接客業。俺も転職したら花屋になろうかな」
「…なるが捜してる」
「知ってるよ。伝えないでいいのか」
「そうしてる間にあんたは逃げるだろ」
「まあね」
「嘘ついたって嫌われたくないし」
「ふふ。よっぽど好きなんだな
安心だよ。あいつのこと頼んだぜ」
石段に腰掛けたまま、空を仰ぐように首をもたげる阿出野。瞼を閉じてどこか清々しい面持ちのそれに一瞥をくれると、高草木は珍しく、その涼しい顔を曇らせた。そして、
「ーーーぉわっ、」
油断しきったそいつの胸ぐらを掴み上げる。相手の鼻先に、自分の顔を寄せて。
「おれはお前が嫌いだ」
「知ってる。目がそう言ってるもんね」
「でもなるは違うんだよ」
食ってかかるように告げた。鋭い眼光、目と目がぶつかり合う。
「…いくら代わりに他の人間がそばにいて励ましてやってもな。彼女の憂さは晴らせないんだよ。いくら手伸ばしてみてもな、部外者がちょっと優しくしたって届かないんだよ」
「…」
「…おれじゃ、だめなんだよ」
悲痛な叫びだった。いついかなる時もそのポーカーフェイスを崩したことのない高草木の表情は、やるせなさに歪み、阿出野の胸ぐらを掴む手は震えている。
やがて次第に脱力していき、その手は乱暴に振りほどかれた。
「おれは一度組みあった奴ならそいつがどんな型がすぐに見分けられる。
だからお前みたいな固まったものがない、読めないやつは一番嫌いだ」
「…」
「目をつぶるのは今回だけだ。次会った時、おれはお前のこと全力で捕まえにかかるよ。さっき程度のじゃれあいじゃ済まさない…覚悟しとけ」
背を向け、踵を返す高草木の背中を横目で見送る。瞼を閉じて、数秒。
阿出野はすう、と目を開いた。