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「…」
管理人の萩本さんがいなくなった後も、しばらく封筒に視線を落としたままでいた。手紙ってなんだよ。なんでこのタイミング。なにを思って、いつ書いたんだ。
個人的には、よみたくない。いいことが書いている気がしなかったから。でも。今はそんなことを言ってる場合でないのも。
誰より私が知っている。
聞いたのは私だ
茶封筒の封を、指先でちぎる。中からは、白い便箋が三枚ほど重なって姿を現した。
なるへ
お前がこの手紙を読んでる頃にはもう、俺はお前のそばにはいないと思う
とかベタなことを言ってみる。
ーーー改め直して。
この前は変なことを言って悪かった。こういうことは、きっと面と向かって言わないとお前は怒るんだろうけど、俺にも事情があって手紙になってしまうこと、許して欲しい。
あの日、本当はお前に真実を話す予定じゃなかった。話すべきじゃないとずっと考えていたからだ。だって言えば、お前間違いなく口を突っ込んでくるだろう。俺はそれが嫌だった。でも、7年も前の出来事をお前は忘れないで、それどころかそのせいでずっと苦しんでいたことを知った時、こうも頑なに隠すのもなんだかバカらしくなった。
突然のことで納得より動揺が勝っている姿が目に浮かぶが、お前にそれを言わなかったのは言えばなるの性格上、お前は自分を責めると思ったことでもある。だけどな、なる。
これだけは言っておきたい。
夕凪や、親父が死んだのはお前のせいじゃない。
あの日なるを選んだのは紛れもない俺の意思で
あの日俺が仮に選択を変えても、いつか同じことが違う時に起こっていたと思う。
俺は間違ってなかった。お前も勿論そうだ。
そこだけは勘違いしないでほしい。
長々書いたけど普段慣れない手紙なんて書くと手が痛いからこの辺にしとくわ。
とりあえず、ここに書いていること、お前に俺が言ったことは、すべて忘れて、お前はお前の人生を生きろ
どういう意味かわかるよな?
少し心配だ。お前すぐ泣くしな。ちょっとは強くなれよ。
あ。あと。言い忘れてたこと。
…7年かけてお前が俺を探してたって知った時は驚いたけど
実は凄い嬉しかった。
なる。俺のこと、見つけてくれてありがとう
最後に
守ってやれなくてごめん
阿出野