表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RUSH  作者: 或田いち
FILE7.孤独の闘志
162/201

18



 

 部屋は、もぬけの殻だった




「…たり前、か…」


 こぼすように呟いて、そっと足を踏み入れる。八畳一間のワンフロアには、TVとベッドだけが残されていて、それ以外は本当になにも置かれていなかった。

 生活感の欠片すら感じない。本当にここで、阿出野は存在していたのだろうか?それすら疑問に感じる。

 念のため、ベランダやクローゼットに何か手がかりはないか、と動き出したところで、その声は届いた。


「阿出野くん?」


 呼びかけられて、振り向く。すると、入り口の戸の前で此方を伺う一人の男性の姿があった。50手前くらいだろうか。片手に杖を持っている。


「…えっ、と…」

「…じゃ、ないね。いや、本当に来るとは思っていなかったよ。想像していたより、別嬪なお嬢さんだ」

「…え?」


 状況がいまいち掴めないまま立ち尽くしていると、その男性がおもむろに一つの茶封筒を懐から取り出した。それを持ったまま、よたよたと歩み寄って来る。


「…貴方は」

「私は、ここのアパートの管理人の、萩本です。ここの住人…阿出野くんにおつかいを頼まれていてね。自分がいなくなったあと、きっとここに女性が来るだろうから。その時これを渡してくれと、頼まれて」


 手に持った茶封筒に視線を落とし、成り行きのままそれを受け取る。表裏を向けても何も書かれていない。


「…あの、阿出野はいつこの部屋を引き払ったんですか?」

「つい数日前だよ。でもそれ以前から立ち退きの話はしていたからね、そうだな…丁度半年ほど前だよ、たぶんいずれこの部屋を出るって彼が言い出したのは」


 半年前といえばーーー私と再会した頃だ。


「…いやはや、でも本当に来るとは思わなかったよ、てっきり見栄を張っているものだとばかり。

 恋人へ向けたラブレターとか言ってたね。きっと感動するだろうから、一人でゆっくり読むといい」

「…そんなんじゃないと思います」

「? でも阿出野くんはここに来る女性は家族より大切な人、と言っていたよ」

「…」


「見栄を張らない。いや、若いっていうのは素晴らしいことだね。…部屋、出るとき声だけかけてくれるかね

 それまでゆっくり、この部屋使ってもらって構わないよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ