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R U S H
「あくまで冨樫は会社からの命令で宣告するだけの役回りだったと仮定したら、それはあり得ないと思う
彼がどの位置に居たのかのにもよるけど…何にしても、田賀谷さんにもっと詳しいことを聞かないとわからないから連絡が取りたいのに、さっきから連絡しても通話中なんだよ」
ここに連絡して、そう告げ渡された名刺の番号にダイヤルしては通話中、を先ほどから延々繰り返している。気づけば電番の横には十数回にも及ぶダイヤル回数が表示されていて、さすがに気持ち悪いかとスマートフォンをウエストポーチに収めた。
「まぁ、さっきの今じゃね。それに田賀谷も知ってたらなるに全部教えてくれてただろうし、あの人も全部が全部知ってるわけでもなさそうだよね」
「わからない…あの人は阿出野の母親公認の監視役らしいけど…でもそれなら阿出野が冨樫に復讐するなんてお母さんが生きていたら絶対望まない行い、なんで黙認してるんだ?」
「…あくまで阿出野サイドのスタンスなんじゃない?しかも元々は前の会社で、真野、そしていわば冨樫の部下だったんでしょ。
…反論出来ないとか」
「だったら尚更止めに入るだろう…過去とはいえ元上司を現部下が殺そうとしてるとか、…普通あんな冷静でいられないと思うんだけど」
信号が赤になり、車が止まると同時にうーんと二人して腕を組んで考える。
謎がさらに謎を呼び、いよいよ頭がこんがらがってきた。今、サーモグラフィで二人の脳内を見たらきっと真っ赤に違いない。
「…なんか眠くなってきた」
「おいやめろ!寝たら死ぬぞ(私が)」
ふわわ、とあくびを一つこぼす高草木の隣でそうは叫んだものの、阿出野と出掛けた当日家に帰ってきてから泥のようにふさぎ込む私をずっと看病していたのは、紛れもない、高草木だ。
ましてや自分の部屋、そしてベッドまで占領されても愚痴一つこぼさないあたり高草木クオリティなのだろうが、そこまで思い返してようやく、私は自分の行いと罪悪感で居た堪れなくなった。
「…私がベッド占領してたからか。ごめん」
「許さない」
「え」
「キスしてくれたらチャラ」
隣でにや、と笑われて目を見開く。無理、と叫びかけるや否や、
「冗談」
といつもの棒読みが飛んできた。