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「…りえねぇ」
「博己と有坂(講師)がいつも取る部屋は決まっててさぁ。その部屋に盗聴器と監視カメラ付けといたんだよねー。
…まぁ違法なんだけど。写真だけじゃ納得いかないからもっと確証寄越せって父親がうっせーからさ、そんでコレ」
「ありえねぇ」
「逆にショック受けるだけだと思うんだけどね、優秀な一人息子がまさか、予備校講師と付き合っててしかもゲイって…俺が逆の立場なら卒倒するね、うん」
「有り得なさ過ぎるだろ、お前は!!」
私が思わず怒鳴り散らすと、それまでケーブルを操作していたあでが肩を揺らして振り向いた。
「なに、びっくりした。急に怒鳴るなよ、寿命縮んじゃうだろ」
「なにっ…のんきなことを…!お前はっほんとに!」
大して広くないそのピンク部屋の一室で、壁にへばり付いては震える唇が勝手に怒号を撒き散らす。
慣れない場所に体は異常な程警戒信号を鳴らしていて、あでが作業をしてる間にも気を紛らわす為にと触れ回った引き出しやらから飛び出た産物(大人のおもちゃ系)が、思わず放り込んだベッドの下から覗いているのを見つけた瞬間、またかっと耳が赤くなった。
そもそもこんな場所に連れ込むやつがあるか、偵察だからって、こいつさては全部わかっててこんなとこに、"ラブホテル"なんかに連れ込みやがったな。
耳も隠れるほどの髪があってよかった、昔なら短髪だったから即アウトだ、なんて安心する一方で、しかし顔にジリジリと集まってくる熱を察知したあではニヤリとまた口の端を引き上げた。
「いやーおもしろ。やーっぱお前連れて来てせーかい。ってかまぁラブホだからどっちみち1人じゃ入れなかったんだけどね」
「うっせー馬鹿!変態!だっ大体!お前そのっ…越智!博己!たちがこのホテルのどの部屋使って常連なのか知ってたりとか、その…盗聴器とかカメラとか付ける為にもこのホテルに何度か来たことあるってことだよな!そんときどーしてたんだよ」
「普通に下調べしてたよ」
「1人じゃ入れないんだろ!?」
「バカじゃねーの、だから適当にやってたよ。この辺ホテル街だからそーゆー店多いし。女引っ掛けてたら済むだろ」
「お前って…本当最っ低……前からだけど」
「なに?聞こえない」
眉をしかめて腰を上げるあでに向かって、思わずベッドに置いてあったまくらを投げつけた。
「バカどくなよ!テレビ見えるだろうが!!」