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「…けどだったらこの想いはどこにぶつけりゃいいんだよ。…いい歳こいてさ、馬鹿みてぇだけどさ。
…瞼を閉じればあの日の情景がさっきのことのように蘇る。夢を見る。悪夢だ。夜もろくろく眠れない。いつまで続く。きっと一生だろう。これは俺の咎だ。俺が一生背負ってかなきゃならない罪、そして罰なんだろう」
「…阿出野さんのせいじゃありません」
「…知ってる。でもな。頭でわかっててもな。体はいうこと、効かねぇもんさ」
事務所の人間には、俺の荷物全部捨てていいって伝えといてくれ。そうとだけ告げて踵を返す阿出野、ふと片手を見れば持っていたはずの小袋を掠め取られている。
ーーーいつの間に。
「…阿出野さん、どこへ行くんですか?!」
「決着だよ、決着」
「決着って…」
「…俺が死んだら、骨。海に捨ててね」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ!阿出野さ、」
「あ、そだ」
ピタ、と足を止める相手に、思わず此方も慌てて身を固める。ゆるりと顔だけ振り向いた阿出野の表情は、いつもの腑抜けた笑顔だった。
「お前が夕凪を必要としてくれたように、夕凪にとってもお前はかけがえのない存在だったんだぜ」
「…なにを、」
「じゃなかったら、嫌味でも無い限り、毎回会う度彼女のいない俺に彼氏自慢なんてして来ない」
ひら、と手を振ると路地の出口を横切っていく背中。立ち尽くしたままそれを見送り、はたと我に返ってあとを追った時にはもう、阿出野の姿はどこにもなかった。
「トガシマサノブっつったっけ」
車内にて、ラジオのチャンネルをめまぐるしく切り替える高草木がポツリと呟いた。
「…あぁ、確かにそう言っていた。田賀谷さん曰く、阿出野の父親・真野を嵌め会社から削除した人物…」
「その人ってどこにいるの?」
気持ちを切り替え、阿出野を救う宣言したはいい。確かに、そこだ。現在進行形で私たち、いきなり壁にぶち当たっている。
「…わからない」
「そもそも真野さんの会社の直属の上司っても、今はまた違う会社にいるわけでしょ」
「普通に考えたらな」
「人事の人だったってこと?自分が解雇した社員が自殺したってなると、やっぱ処罰とかあるのかね」