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何、と思ったら片手は直ぐに離れて行き、触れてみるとこめかみに花が咲いていた。
「やはり、想像通り。君にぴったりだ。君と話ができる日を楽しみにしているよ」
それじゃあ。そう言って、晴れやかな笑顔でその場を去る背中。立ち尽くしたままそれを見送ると、傍で一部始終を見守っていた高草木が私の横髪の花を抜き取った。
「油断してたけどとんだキザ野郎だった」
「………」
「…さっきの話ほんと」
頭上から、高草木が私の顔を覗き込む。付かず離れずの距離感。俯いたままの私の手を取り、彼はそっと花を握らせた。
「無理して言わなくていい」
「…高草木」
「けどあいつのせいでなるがそんななったなら…おれはなるが元に戻る為にあいつのこと探すの、手伝うまでだよ」
「…」
「知りたいんでしょ、あいつのこと」
そのために頑張ってきたんじゃないの。
「おれたち」
まっすぐ見据える、淀みのない眼差し。その目に魅入られて、気付く。そうだ。これはもう私だけの問題じゃない。いつまでここで止まってるつもりだ。あいつは。
あではいつも先を見てて。
昔から私はそれを追い掛けるのに精一杯だった
《俺とお前じゃ住む世界が違いすぎるんだよ》
違うよあで。本当にそう思っていたなら。なんでお前は私に真実を話した?
《お前といたら俺は迷う》
《なのになんで来ちゃうかな…》
私があいつにとっての最後の可能性であるなら
私は
「ようやくマシな顔になったね」
決意を灯した眼差しで顔を上げた私に、高草木は相も変わらず一本調子な声色で応えた。
薄暗い路地裏で死んだように息を潜めていた。遠くからの雑踏。呼吸音。気を抜けば卒倒しそうだとすら思う。集中して身体中の感覚を研ぎ澄ましている。虎視眈々と。自分の存在が、空気そのものに交わるように世界に馴染み、浸透する。
死後の世界と似ているのかもしれない、とすら不意に思った。人が死に、物体が亡くなった時、その存在は燃え、気体となって蒸発する。痛みすらない。きっと近しい、自分の未来だ。
(…喉が)
渇くな。そう感じる自分に嫌気がさした。脂が足りない、とも。自分の意思では削ぎ得ることの出来ないこの感覚がある限り、まだ俺はこの世界に縛り付けられている。