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「あーあ。知ってる顔した。…なるほど~?あいつはついに復讐しようとしているってわけだ」
それまで丁寧な所作を心掛けていたらしい田賀谷も、吹っ切れたように片手を腰に当て、バリバリと後頭部を掻き毟る。
「復讐?」
「まぁ無理もない。父親と妹の、家族二人も殺されたんだ」
「…え」
反射的に目を見開いた高草木が私を見る。私はといえば吹っ切るように立ち上がり田賀谷に掴みかかった。
「…っあんたなんでそれ、」
「何でも何も生前阿出野のお袋さんに阿出野を頼まれたのは俺だよ」
「…!?」
意味がわからない。どういうことだ。阿出野は私以前に、この上司に全てを打ち明けていて。それを知った上でこの男、田賀谷は黙認していた?
こんな飄々とした、態度で?
目を見開いたまま硬直る私を見下ろし、田賀谷さんは目を細める。よくよく見たら端正な顔立ちをしていた。それでいて育ちも良さそうな。うっすらと開いた唇が弧を描き、優しく甘い声をつむぐ。
その姿は妖艶とすら思うほど、
「…君はどこまで知ってる?何が知りたい。教えてあげるよ。阿出野のことが知りたいんだろう。俺は君にそれを伝えるために来た」
「………私は………」
黙り、俯く。私は阿出野の何を知ってる?阿出野が真実を吐露したのは、つい最近。ほんの少し前だ。それも真実かどうか、自分では見極めることも出来ないでいる。私は阿出野の何を知ってる。
本当はまだ、何も知らないんじゃないのか?
「いやさ、あー見えてあいつ仕事は出来たからないなくなると困るんだよ。だからなんとかして探し出したくって…と思ったんだが、その様子じゃ君も混乱しているみたいだし、知らないならいいよ、自分で探すしお邪魔様」
「………待っ、」
思いがけず、踵を返した田賀谷さんのスーツの裾を引っ張った。彼は首だけを向くと、またにこりと微笑む。
「何にせよ君とも話がしたかったんだ。阿出野が心を許した人がどんな女性か…でもその瞼じゃ今日どこかに行くってのは無理そうだ。落ち着いてからでいい。話が聞きたくなったらここに連絡してくれないか」
そっと差し出されたのは名刺とは違うカードで、手書きで連絡先が記されている。仕事用とプライベートで使い分けているのか、それを受け取るとそ、とこめかみに手を添えられた。