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とあるアパートの一室。家具家電を全て撤去し、八畳程の四角い箱の中は、ベッドと、そしてその脇に置かれたボストンバッグが一つだけがある。
スーツジャケットだけを脱いだ状態でベッドに横になる一人の男。腕時計を見る。時刻は朝の5時をさしていた。虚ろな目のままぼんやりと思う。
…また一睡も出来なかった。
やがて朝日が顔を出し、カーテンを締め切った窓の隙間から光が斜めに射し込む。
ベッドの脇、無造作に置いてある今は使用していない携帯電話には、7年前の日付けと、返信が来ることの二度とない、妹からの受信メール画面が開かれていた。
【件名:Re:わるい
わかった。家で待ってるね】
瞼を閉じれば、嫌でもあの日の光景が一瞬にして蘇ってくる。フラッシュバックとも似ている。バラバラと空に向けてばら撒いた写真が落下するように。記憶は余りにも鮮明に、色んな角度、表情、景色、色合いを表現し、脳内でスライドショーのように再生させる。
一通り全ての画像が脳内で再生されると、彼は、阿出野慎也は、ゆっくりと瞼を開いた。
その鋭い眼に、孤独の闘志を宿して。
FILE7.孤独の闘志
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「阿出野の上司、田賀谷です」…
そう告げたスーツの男は、にこりと張り付けた嘘とも本心とも見える笑顔を一向に崩す気配はない。突然のことについて行けず硬直する彩女。長い長い間だった。硬直状態の二人の元へその時階段を降りてきた誰かの姿が顔を出す。
「彩女さん、お客?」
「…あっ、相、くん…」
「………誰?」
見知らぬ顔ぶれに露骨な不信感を振りかざす青二才・高草木を前に、田賀谷はうーん、と首を傾げた。