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「いらっしゃーせー」
「大学生数人が借りた部屋ってどこ」
「え?一番さっきで5号室…てきみ!?ちょっと!!」
店員の制止も振り払い、闇雲に店内を走った。同じ形の扉が連なる中、曲がり角を越えた突き当たりにその部屋はあった。声がした。下品な騒ぎ声。高笑い。
それよりも先に目に飛び込んでくる、うちの高校の制服を着た女子生徒の姿。
不自然な形で外から扉を押さえ込んでいる、とすぐわかった。そして何よりも先に、そいつに目が行く。相手もまた、扉を押さえつけたまま、立ち止まった俺をまっすぐに見て
目を見開いた。
ーーーーーー田嶋ゆりか。お前か。
…そこからはもう、正直よく覚えていない。ヒューズが飛ぶ、とはまさにあのことを言うのだろう。
外にいた女子生徒を蹴散らし、扉を開けて、部屋で数人の男たちに囲まれるなるを見つけようものなら、怒りも何もかも通り越して殺してやろうと本気で思った。
だがとっさに取った行動がなるを奪還しただけだったあたり、その辺が俺という人間ということだ
田嶋をフった俺への逆怨みから被害を被る形になったなるにどんな顔をしてやればいいのかわからなかった
申し訳ない気持ちとか悔しい気持ちとかいろんな感情がない交ぜになった末、結局俺はなるを担いで逃げ出すことしか出来なかったのだ。
駅前からだいぶ離れた土手まで逃げてきた所で、担いでいたなるを降ろしてやる。俺も俺で、体力の限界からその場に倒れこむ形で大の字で寝転んだ。
俯いたまま震えて、泣きじゃくる彼女にかけた言葉と言ったら、その時でさえ大した言い回しじゃなかったとすら思う。
パンツ履いてる?とかどこまでされた?とか。自分が自分を保つためにも、デリカシーの欠片もないことを、こんな時にたくさん聞いた。
だからなるが怒るのも無理はなくて
「うるっせんだよ!!ちょっと黙れこの野郎!もう嫌だ!みんな大嫌いだ!誰が友達だ、ふざけんなこっちから願い下げだよ!みんなしんじまえ!、みんなっ消えちまえばいいんだちくしょう!」
「…」
「うっ…うぅっ…」
そのときになって、出会って間もない頃のことが蘇った。なるの言葉だ。
《笑えばいいのに》
《私だって面白ければ笑うし、泣きたくなれば泣く》